写真=提供 撮影:坂内太
5月24日、日吉キャンパスで「パレスチナ演劇の夕べ」が開かれた。昨年10月のハマスによるイスラエル攻撃から約8か月。ガザではイスラエルによる信じがたい非人道的な虐殺が行われている。この現状を受け、日本の大学でもパレスチナに連帯する動きが見られる。この上映会は慶大でパレスチナに連帯する教員・学生有志が開催した。上映会では昨年2月に名取事務所が上演した「占領の囚人たち」が上映された。両作品はイスラエルのパレスチナ人「政治囚」に対する残酷な扱いを描く。
弊紙はこの演劇のドラマトゥルク( ※注)を務める渡辺真帆さんにインタビューした。渡辺さんは6月現在、JVC(日本国際ボランティアセンター)の職員として東エルサレムで活動している。
※ドラマトゥルク…舞台芸術における役職。作品の制作現場において、演出家とともにあらゆる知的作業に関わる。
「イスラエル人入植者が堂々と歩く」東エルサレムの今
―東エルサレムは現在どのような状況なのでしょうか。
ユダヤ化が急速に進んでいると感じています。JVCの事務所があるのはシェイフ・ジャラという東エルサレムのパレスチナ人居住区で、本来であれば(ヨルダン川)西岸の一部であり、長年パレスチナ人が居住しています。しかし今回の滞在では、以前に訪れた5年前や1年半前に比べ、イスラエルの国旗が目に見えて増えていると感じました。昨年10月7日以降、イスラエルが管理するあらゆる公共空間でイスラエル国旗が増えています。
また、パレスチナ人が強制的に立ち退かされた家に入植したユダヤ人入植者が、安全に気を遣うような素振りがなく、普通の住宅街のような感覚で生活していることに驚きました。お母さんが小さな子どもを連れて歩いていたり、子どもを外で遊ばせていたりしていたんです。これも以前は見られなかった光景です。
自分たちの正当性に対する自信や、イスラエル警察の監視により自分たちに敵意や攻撃が向かないという安心感が、10月の侵攻が始まってからより確かなものになったのかもしれません。
パレスチナの声を聴くことが抵抗の第一歩
――パレスチナ演劇を見た際、資料や本で読むよりも悲しみや苦しみが身に迫って来たのが印象的でした。演劇をはじめとした芸術活動がパレスチナへの連帯にもたらす意義はどのようなものだと考えていますか。
イスラエルの膨大な国家予算をかけた広報活動もあり、西側の主流メディアではイスラエル側のナラティブが語られてきた状況のなかで、芸術活動を通じてパレスチナ人の声を聴くこと自体が連帯の第一歩になると考えています。
「中立」はイスラエルに与すること
―パレスチナに連帯する活動に対し冷笑的な人もいます。冷笑的な態度に対しては、どのように抗っていくべきだと考えていますか。
パレスチナに関心を持っている人や活動をしている人も、それぞれなにかしらのきっかけがあって関心を持つようになったはずです。自分で情報を集める、調べるということがまず必要だと思います。起きていることがあまりにもひどいので、SNS上の短い動画でも非常に衝撃を受けると思います。
私自身は大学3年生のとき初めてパレスチナを訪れました。実際に住んでみてわかったのは、占領する側とされる側に圧倒的な不均衡が存在していることです。その中で「中立」という立場をとってなんの行動も起こさないことは、占領者であるイスラエルを利することにしかならないのだと理解しました。
パレスチナ人は国を作る力を持っている
パレスチナ人は強く、尊厳を大切にする人々です。政府などからの支援が乏しい代わりに、人々が助け合い支えあって生きています。彼らから学ぶべきところがたくさんあると思います。
パレスチナ人には自分の力で国を作る覚悟も力もあります。しかし、それは占領をはじめとしたさまざまな形で阻害されています。支援がなければ生きられない状態になっていることがそもそも異常です。したがって、停戦だけでは不十分で、占領や封鎖を終わらせなければなりません。
一人一人の行動にインパクトがある
また、今はガザにいる個人がSNSで現地の映像を発信し、それが拡散されるようになりました。私たちはアクセスしようと思えばいくらでもそういう情報にアクセスすることができます。今起こっている虐殺を「知らなかった」とはもはや言えないのではないかと思います。
反対に、パレスチナ人も日本の人がどのように行動しているかをよく見ています。アラビア語のニュース媒体でも、日本の大学のデモが報じられています。日本政府に対する失望の声がある一方で、こうした市民の動きはパレスチナの人を勇気づけています。一人ひとりの行動にインパクトがあるといえます。