人が生活する中で生じるあらゆる音や振動を電力に。そんな環境に優しいシステムを開発したのが速水浩平(政策・メディア研究科後期博士課程1年)さんだ。
速水さんが音から発電が出来るのではないかと考えたのは、小学校の理科の時間でモーター発電を学んだとき。「スピーカーはモーターを動かすことで音を出すことができる。ならば逆に音からモーターを動かす、つまり発電させることも可能なのではと思った」
速水さんは小、中、高と音力発電の考えを温めてきた。慶應の環境情報学部を選んだのは学生が文系理系の枠にとらわれず自由に研究ができ、ベンチャービジネス支援にも力を入れているからであった。
学部2年のとき速水さんは音力発電の研究を開始。研究開始当時、音はエネルギーが小さいために発電には不向きであるという定説があった。
しかし、彼はその定説を知らなかったという。「研究を始めた当初は、だれも成功を信じてくれなかった。いろいろな研究者から無駄だと研究自体を反対された。それが悔しくて余計に成功させてやろうという気持ちが強くなった」と振り返る。
試行錯誤した結果、学年末には成果が現れてきた。それまで研究に見向きもしなかった人たちが研究を認め始めていた。速水さんの諦めない気持ちが、音から発電するという夢のようなシステムを生み出したに違いない。
音力・振動力発電には様々な可能性がある。音や振動といったものは、人が普段生活している中で頻繁に発生するものであるからだ。そのため、応用できる分野が幅広い。
例えば、テレビのリモコン。リモコンを押すその振動で発電することができれば、リモコンに電池は不要だという。また、高速道路に発電システムを設置すれば、車が通った振動を夜間の街灯の点灯に使うことができる。現在広まるユビキタス社会に必要なユビキタス電源にも有効活用されることが、音力・振動力発電は期待されているようだ。
天候に作用されやすく、システム自体にメンテナンスが必要となる太陽光発電などの他の代替エネルギーとは異なり、音力、振動発電にはデメリットがほとんどない。まさに地球に優しい理想的な代替エネルギーが音力・振動力発電なのだ。
「街全体に音力、振動発電のシステムを取り付ければ、街全体をひとつの発電所にすることも可能になる」と速水さんは語る。
音力・振動力発電にはまだまだ改善する点があるのも事実。「もっと発電効率を上げて、社会貢献を果たしていきたい」。そう語る速水さんの瞳の奥から無限の可能性を感じた。
(亀谷梨絵)