大学院とは、学部(学士課程)卒業後に進学できる、高等教育機関のひとつである。現役学部生、特に文系の学生にはなかなか馴染みがないかもしれない。
本記事では、学生部の学事担当者、就職・進路支援担当者と、3名の現役大学院生に取材した。
「目的意識もって進学して」学生部インタビュー
―学部と修士、博士課程の違いは何ですか?
学部では文理ともに教員や先輩のサポートの元、研究を行います。
一方、修士課程は自身の研究内容を決めたうえで進学するので、自らの責任で研究を進め、深化させていきます。
博士課程に進むと、他の研究者と同じフィールドで研究して行かなければなりません。修士と比べより研究に特化していくことになります。
―大学院進学のメリットは何でしょうか?
研究で高めた専門性を生かして職業選択ができる点です。
また研究を進める中で、PDCAサイクルで物事に取り組む姿勢が身につき、就職活動や仕事に活かせる点もメリットのひとつです。
―大学院修了後のライフコースはどのようなものですか?
今年度は大学院を修了した文系学生は約6割が就職し、約2割が博士課程に進学しています。
就職先としては、情報通信業や学術研究、専門・技術サービス業が多いです。
理系学生は、約8割が就職し、1割弱が博士課程に進学しています。就職先としては、製造業や情報通信業などが多いです。
博士課程に進学し、博士号を取得してから就職しようとする場合、企業の就職枠や研究者のポストは限られています。そのため文理ともに、大学教員など正規の職に就くのは狭き門であるのが実態です。
現在は国や大学の方で、博士号を持っている人たちのキャリアを確保していけるように政策が検討されています。
―学生部の院進学のサポートを教えてください
文系では、塾生や他大学生を対象とした各大学院研究科の説明会を開催しています。
また、思い描くキャリアと大学院進学がどう繋がるかといった観点で、所属キャンパスの就職・進路支援担当がいつでも相談を受け付けています。
理系では、入学試験を他大学よりも比較的早い6月に行っているところもあります。早い段階で大学院進学を確定させたうえで、安心した状態で卒業研究に取り組めるようにサポートしています。
また、理工学研究科の場合、入学試験は8月にも行っているため、6月で不合格でも、再度チャレンジできるような機会が設けられています。
いずれの研究科も、学費の面でも支援を行っており、大学側で様々な給付型奨学金を用意しています。
―最後に大学院を目指す学生へのメッセージをお願いします。
目的意識を持って大学院に進学してもらいたいと思います。就活がうまく行かず、何となく大学院に進むのでは良い研究ができません。是非大学1、2年生の頃から、自身の学業的な興味関心も含め、将来のキャリアを考えながら過ごしてもらいたいと思います。
また、塾内には14の大学院研究科があります。古典的な研究だけでなく、課題解決型や実践型などの新しい研究も行われています。自身の在学している学部に繋がる大学院だけでなく、他の研究も含め、広い視野で大学院進学を考えてもらいたいです。
以下は参考リンク集。とくに理工学部博士課程のYouTubeでは、研究生活を楽しく知ることができる。必見だ。
●政府による博士課程修了者への支援政策等の詳細はこちら
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/hyouka/haihu144/144_honpen3.pdf
●大学院における奨学金の詳細はこちら
https://my.ebook5.net/keio-shogakukin/annai-daigakuin_2024/
●理工学部博士課程の研究紹介はこちら
https://youtube.com/playlist?list=PLBe_TIITFkIo5K5O6K4MmJLV-bRLgOewA&si=wY3K4Rh6gN8khPFR
「社会でこの知識が使えるという実感が持てる」現役大学院生インタビュー
【文系】Aさん
−所属
法務研究科 法曹養成専攻1年
−卒業学部・卒業年
文学部(2024年卒業)
−普段はどの様な研究をされているのでしょうか?
法務研究科(法科大学院)に所属しており、研究というよりは授業を中心に勉強しています。
主に、基礎的な法律の勉強をしつつも、それ以外の細かい法律なども学んでいます。
−大学院での1日の過ごし方を教えてください。
大学院の中でも法務研究所は、多くの他の大学院とは異なり基本、講義形式の授業なので、大学生の様に時間割に沿って授業が行われています。私は、週に4日授業があり、授業は主に午前中で、午後は大学院生専用の自習室で勉強しています。
−授業ではどのようなことを勉強されていますか?
私は未修コース(大学で法律を勉強してない人や社会人経験者向けのコース)に所属しているので、基礎的な法律の勉強をしています。未修コース1年は法学部法律学科の人たちが、4年間かけて学ぶ内容を1年間で勉強するような感じです。
−進学した理由をお教えください。
学部時代は文学部の人間科学専攻において、家庭環境による子どものライフコースへの影響について研究しており、卒業論文も少年犯罪について社会福祉の面から研究を行いました。その中で公務員など公共的な分野に携わる仕事をしたいと思い、社会福祉等の制度の基盤になっている法律を学ぶことで、今後の職業選択に繋げたいと考えたからです。
−大学院生活で大変なことは何ですか?
法科大学院では司法試験を受ける人がほとんどのため、未修コースといえども、最初から求められるレベルが高いと感じます。私自身、学部4年生の頃から法律について少し勉強はしていましたが、法学部以外の出身なので、日々の授業や試験勉強に精一杯の毎日です。また、法科大学院では短期間に法律を網羅的に勉強するため、進度がかなり早く勉強量が多いところが大変だと思います。
−大学院の魅力は何ですか?
主に3つあると思います。
1つ目は未修コースでは、社会人経験のある方や理系出身の方、結婚や出産されている方など様々な経歴の同級生がいるので、自分自身の将来を考えるにあたって参考になると思います。
2つ目は実務家教員(現役弁護士や検察官、裁判官経験者のこと)から直接話を聞けるので、弁護士や検察官の仕事の実情を具体的に知ることができることです。
3つ目は専門的知識を身につけられることです。大学は勉強も遊びもどちらも楽しむというところがあると思います。、一方大学院は基本的に勉強を集中的にする場所なので、勉強量は多いですが、専門的に学べます。
また、社会に出た時にこの知識が使えるのだろうなという実感を持って勉強ができる点もいいと思います。
−大学院の入試にあたり、どの様な勉強をされましたか。
院試を受けるにあたり、「これを勉強しました」というのは正直ありません。法務研究所の試験は、小論文60%・志望理由書と学部時代の成績が40%で構成されるので、当日の試験も大事ですが、学部の成績や志望理由書も非常に重要だと思います。
個人的な感想ですが、小論文に関しては、文学部の入試と似ていたので、個人的には取り組みやすかったです。
志望理由書に関しては、自分が取り組んできた研究を大学院に入ってどう活かすかなどを具体的に書きました。法学部以外の学部から法科大学院を目指す人は、卒業論文などを大学院で学びたいことに寄せて書いた方が志望理由書は書きやすいと思います。
また、私は大学時代に塾生新聞で活動していたため、文章を書く機会が多く、書く力は比較的養われていた方だったと思います。もし文章力や読解力に不安があるようであれば、過去問に取り組んだり、ほかの人に答案を見てもらったりするなど対策をすることが重要だと思います。
−志望理由書にはどのようなことを書かれましたか?
基本的にはゼミでの勉強内容、将来の展望とそれに伴う大学院での勉強内容について書きました。大学で学んだことを活かすという意味で、ゼミや通常の授業に関する内容を深める方向で書くと書きやすいかと思います。
−教授と接する機会はどの程度ございますか。
法科大学院では、大学の授業のように、色々な教授が授業を担当する形式なので、ある特定の教授と密接に関わる機会は現時点ではあまりないです。しかし面倒見のいい先生が多く、授業前後の質問にも積極的に答えてくださいます。また、ゼミ形式の授業もあり、ゼミでは実務家の先生(弁護士)が、院生の質問や答案を見てくださるので、実務家教員の先生とは親しくなることはあります。
−法科大学院における進級条件は学部生とはどう異なるのでしょうか。
法務研究科では、1年のうちは1つでも単位を落とすと、留年してしまうなど、進級条件は非常に厳しいです。
−修了後のライフコースはどのようにお考えでしょうか?
児童福祉に関する仕事に携わりたいと思い法律を学んでいるので、国家公務員や家庭裁判所調査官などを含めて、公共的な分野の仕事につきたいと思っています。
周囲の人は、法曹三者(弁護士・検察官・裁判官)になることを目指している人が多いです。
【文系】Bさん
−所属
文学研究科 哲学・倫理学専攻 倫理学分野 修士1年
−卒業学部・卒業年
文学部(2024年卒業)
−普段はどのような研究をされているのでしょうか?
ミシェル・フーコーという20世紀フランスの思想家の研究をしています。
−大学院での1日の過ごし方はどのようなものでしょうか?
日によりますが、今学期は授業が午後なので、午前中にバイトを入れることによって強制的に起床し、バイト終わりに大学に行き、その日の授業の予習などをし、授業を受けてから帰るという生活をしています。私は家にいると寝てしまうので授業のない日も大学の図書館に行って勉強をしています。
しかし最近は就活が本格化し、研究の代わりにESを書いたりしています。
−進学した理由をお教えください。
研究を続けたかったからです。
−大学院生活で大変なことは何ですか?
思ったよりも卒業に必要な単位が多く、自分の研究に使える時間は制限されるなと思いました。最近は、研究と就職活動の両立が大変です。
−大学院の魅力は何ですか?
専門的な研究をしている人に囲まれていると刺激になります。また教員や先輩から鋭い指摘をもらえることも魅力だと思います。
−院試にあたり、どのような勉強をされましたか。
試験科目は、専門科目(倫理学)、フランス語、英語です。
倫理学に関しては倫理学や倫理学史に関する入門書のようなものを読んでいました。
フランス語に関しては文法と単語の勉強をしていたほか、フランス文学の先生が出題傾向に近いフランス語の文章を課題として出してくださり、訳文を添削してくださっていました。(私はフランス文学専攻ではありませんでしたが、面倒を見てくださいました。)
英語は、倫理学史をある程度わかっていればそれほど難しくない内容だったため、過去問を少し解いたのみです。
−教授と接する機会はどの程度ございますか。
授業で毎回お会いします。
−修了後のライフコースをお教えください。
修士卒で就職しようと思っています。業界はまだ決まっていません。
周りの人は、博士に進む方が多いように思います。
【理系】Cさん
−所属
理工学研究科 開放環境科学専攻 オープンシステムマネジメント専修 修士1年
−卒業学部・卒業年
理工学部(2024年卒業)
−大学院での1日の過ごし方はどのようなものでしょうか?
ゼミがある日は主に大学において、研究室の人達と研究を進めています。
ゼミの無い日は、授業がある日もありますが、コマ数はそこまで多くありません。研究室や自宅で細かな作業をすることもあります。また、最近は就職活動に充てる時間も増えてきましたが、休日はしっかりと確保し、気分転換のための時間も意識してとっています。
−普段はどのような研究をされているのでしょうか?
学部時代は、「災害時のSNSでのデマ拡散が避難行動にどのような影響を与えるかをシミュレーションによって検証する」という内容の研究を行っており、卒業論文はそのテーマで書きました。
現在では、より理論的なモデル構築に研究の方向性を変えたいと思っており、先行論文を読む日々が続いています。
−進学した理由をお教えください。
学部時代に研究をしているうち、学部の1年間では自分の中で明確な区切りを打てるような、はっきりとした成果を上げたという実感も実績もあまりなかったからです。納得感を持った成長ができていないまま学部で卒業するのはもったいないと思い、修士進学を決めました。
−大学院生活で大変なことは何ですか?
やはり研究を進めることだと思います。大学院では、自身が取り組む研究に対する責任や求められるクオリティが学部時代とは明確に上がるため、それ相応の努力が必要になります。
−大学院の魅力は何ですか?
学生が主体的に行動すれば、それ相応の利益を享受できる環境が揃っているところだと思います。自分が学びを深めたいと思えば、それを学ぶ資料や研究成果、相談できる教授方や研究室の仲間、成果を発表する機会が与えられているのがやはり大学院の魅力だと思います。
−院試にあたり、どのような勉強をされましたか。
学内で一定の成績をとっていたため院試は受けておらず、そのまま進学しました。そのため、強いて言えば学部時代の積み重ねが後々効いてくると思います。
−教授と接する機会はどの程度ございますか。
毎週のゼミで、研究室の教授と密接に議論しフィートバックを頂く機会があります。それ以外にも、学生の方から打診すれば、教授方も忙しい合間を縫って学生のために時間をとってくださいます。
また、学会や講演等の学外イベントで、他大学の教授とお話する機会もあります。
−修了後のライフコースを教えてください。
大きく就職と博士進学の2つが挙げられると思いますが、私が所属している管理工学系のOR研究室はほとんどが修士を取得後は一般企業へ就職を予定していると思われます。私自身は、現在悩んでいる最中です(笑)
本記事が大学院進学を考えている塾生の一助になれば幸いだ。
(大世古葵)