「もりてつ」の愛称で知られる、予備校英語講師の森田鉄也さん。森田さんは慶大文学部英米文学専攻を卒業後、東京大学大学院を経て、大手予備校の四谷学院・東進ハイスクール・河合塾等で教壇に立った。現在は武田塾英語課課長として活躍する傍ら、自身のYouTubeチャンネルも運営している。英語講師として人気を博している森田さんに、慶大での学生生活から予備校講師となるまでの道のりについて話を聞いた。

 

森田さんは神奈川県横浜市出身。千葉県に転居し、県立高校を卒業した。高校受験の際に猛勉強に励んだ経験から、受験が持つ人を動かす力を持つことを知ったという。

 

「英語教師か、お笑い芸人か」

 

高校卒業後、二つの選択肢に思い悩んだ。吉本興業が運営する吉本総合芸能学院(通称NSC)に出願したが、保護者の同意が必要だったことから入学を断念。代々木ゼミナールでの浪人生活が始まった。英語科講師の富田一彦先生の授業を受講し、感銘を受けたことが、予備校講師を志すきっかけとなったという。「感動や笑いを与えると同時に、生徒の役に立つことのできる予備校講師に魅力を感じた」

 

1年間の受験勉強の甲斐あって、第一志望である慶大に入学。慶大文学部は第2学年進級時に専攻を選択するシステムだが、森田さんは入学当初から英米文学専攻への進学を決めていたという。周囲の学生には帰国子女も多く、「英語が話せない先生にはなりたくない」という思いもあり、英語学習へのモチベーションを高めていった。

英米文学専攻へ進学した後は、専攻での学業に励む日々が続いた。現在も英米文学専攻は文学部内でも必修科目の単位取得が厳しく、進級が比較的難しいという評判が有名だが、森田さんの在学当時についても「とにかくテストがきつかった」と話す。試験前は夜遅くまで勉強に打ち込んだという。

 

受験生時代から予備校講師を志していたこともあり、中高英語科の免許取得を目指し、教職課程も履修した。教職課程では免許取得のために教職特別科目の履修・合格が必須だ。しかし、教員免許取得までの道のりは決して平易ではなかった。「英語科の必修科目を担当していた教授の単位認定がかなり厳しく、受講生の8割が不合格にされていた。その科目の単位が取れなければ教員免許が取得できないので、かなり苦労した」

 

予備校講師への憧れに加え、留学費用を貯める必要があったため、在学中は塾講師のアルバイトに明け暮れた。「英語は講師が足りていたので、指導科目は国語や社会を中心に、週に6日ほど勤務していましたね」と森田さんは話す。塾講師のアルバイト時代に磨いた指導力やプレゼン力は、その後の学業やキャリアの中で大いに活きることとなる。

大学4年次には私費で米国サンディエゴに9か月間留学し、英語教授法TEFL(Teaching English as a Foreign Language)を取得した。留学中の思い出について、「大学の講義は教授がわかりやすく話してくれるので理解できたのですが、日常会話に慣れるまで7ヶ月ほどかかりました」と森田さんは語った。留学先の大学では毎日100ページほどの課題が課され、ハードな毎日を送った。

 

帰国後は唐須教光教授(当時)のゼミナールで、時空間メタファーを主題とした認知言語学の卒業論文を執筆するかたわら、東京大学の大学院入試に向けた試験準備にも打ち込んだ。「将来は予備校講師として、東大の入試英語を指導したい」という思いから、大学院は慶大ではなく東京大学への進学を選択したという。言語分析や言語学といった専門科目に加えて、英語とフランス語の二カ国語を試験科目として課されるため、試験勉強にはかなりの労力を要した。大学院入試の記憶について、森田さんはこう語る。「(慶大から東大への)外部入学だったので、東大の学部生が既に授業で学んでいる内容を独学しなければいけないことが大変でした」

 

予備校講師としての歩み 「慶應ブランド」感じるときも

 

慶大を卒業後、大学院進学、アメリカ・カナダ・韓国への留学を経て、森田さんは予備校講師としてのキャリアを本格化させていていく。大学院在学時から、四谷学院や早稲田塾等で教鞭を執ったほか、大学や専門学校の非常勤講師としてTOEIC指導も行った。その後大手予備校での指導を歴任し、武田塾に籍を移した。現在は武田塾国立校・豊洲校・高田馬場校・鷺沼校のオーナーと、同塾英語課課長として活躍を続けている。

 

予備校講師業に加えて、森田さんは2019年からYouTubeでの発信活動にも注力している。メインチャンネル「Morite2 English Channel」を中心に勉強法の紹介や大学入試問題の解説、時事ニュースへの自身の反応など、幅広いジャンルの動画を公開し、約30万人の登録者を擁している。当時勤務していた予備校への反発と、教育系YouTuberが話題になっていたことが、自身のYouTubeチャンネルを開設するきっかけとなった。

 

卒業後、慶大を卒業してよかったと感じる場面について森田さんは、「予備校講師になるには出身大学名も重視されるので、やはり『慶應ブランド』を実感することがあります」と話す。また、慶大の卒業生組織である三田会が持つ縦横のつながりの強固さについても言及した。現在の勤務先でも、「武田塾三田会」が結成されたばかりだという。

 

最後に、現在の塾生に対して森田さんはこう語った。「在学中に作れるコネを作っておくことが重要だと思う。特に、他学部とのつながりは自然に生まれないので、部活やサークルを通して、知り合いを増やしてみてはいかがでしょう」

 

山口立理