11月24日、今年も「創像工房 in front of.」による「三田祭公演2023」が行われた。同団体は、演劇、お笑い、映像など、様々なエンターテイメントを制作する公認サークルである。11月24日15時からは、第一校舎103教室にて「カサブタにならないようにえぐり続ける」が上演された。今年度も今作と「白猫の手も借りたい」との二本立てであり、両作品とも新一年生のみによって作られている。

 

「カサブタにならないようにえぐり続ける」は、甘酸っぱく、そしてほろ苦い恋愛劇だ。

主人公、野島(演:兼子太吾)はクラスメイトの小泉(演:菊池みすず)に好意を抱いているが、奥手な性格が災いしなかなか想いを伝えられないでいる。彼の「好きだと伝えたい」という感情は、やがて赤シャツの「まっすぐ」(演:中村海斗)と青シャツの「よゆう」(演:前田航斗)という二つの存在を具現化する。

情熱的だが不器用で感情をストレートにしか伝えられない「まっすぐ」と、アプローチには大人らしい余裕が大事だと説きながらも、肝心のセンスがことごとくずれている「よゆう」。

性質は真逆ながらも「思いを伝えたい」という気持ちは一致している感情たちは、告白に躊躇する主人公に苛立ちを募らせる。ある時は「本当の気持ちから逃げている」と野島に発破をかけたり、一緒に作戦を練ったりする。こうして彼らは、主人である野島とともに、もがきながらも小泉に接近していく。

 

野島が感情たちに振り回されたり、感情たちが野島に振り回されたりと、紆余曲折を経てストーリーが進む。きわめてシンプルな舞台装置ながらも、俳優たちの卓越した演技と洗練された脚本によって見事な演劇が成立している。やがて彼らは「相手を知る」という、恋愛における大切な要素が欠如していたことを思い知る。野島は自分の意思表明に夢中になり、小泉との間にすれ違いが生じていることに気付けなかった。「まっすぐ」と「よゆう」も、「どのように伝えるか」という一点にのみ固執し、相手を理解することを見落としていた。劇は失恋によって幕を下ろすが、傷つきながらも少しだけ成長したような野島と感情たちの姿は爽やかな余韻を残す。

 

満席になった会場の反応は上々だった。序盤は強烈なキャラクターたちの巻き起こすギャグに客席は大いに沸き、巧みなストーリーテリングによって観客はだんだんと物語にのめりこんでいく。ラストシーンでは皆、胸が熱くなったのではないだろうか。最後のカーテンコールでは、俳優たちに盛大な拍手が送られた。

 

舞台終了後、筆者は脚本兼演出の岩﨑滉太郎、舞台監督の佐方寛至ら関係者に話を伺った。

彼らは「もともとは『恋愛において必要なものは情熱か余裕か』というテーマから膨らませてお話を作っていった。劇を仕上げるという共同作業の中では人間関係の摩擦やコミュニケーションの難しさなど、大変な点もあったが何とか完成した。皆さんに面白いと思っていただければ嬉しい」と語った。

 

「カサブタにならないようにえぐり続ける」及び「白猫の手も借りたい」は、三田祭の残り二日間も、同じ教室で演じられる。興味を持った方は、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

 

王駿