昨年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27(国連気候変動枠組条約の締約国会議)が開催された。慶應義塾大学に在学中の環境活動家、山本大貴さん(20)は、「record1.5」プロジェクトの共同代表としてCOP27に参加した。「record1.5」プロジェクトの目的は、COP27の様子を現地で取材し映像記録に残すこと。山本さんはなぜプロジェクトを主宰したのか、COP27の取材で何を感じたのか、日本の大学生に求められることは何か。山本さんの考えと思いを聞いた。
山本大貴さんは、環境問題に関するさまざまなムーブメントに参加している学生環境活動家だ。高校生のときから、若者が気候変動対策を訴える「未来のための金曜日」のアクションに参加したり、音楽×気候変動をテーマとする音楽イベント「Climate Live」を運営したりと、精力的に活動してきた。個人の活動として、学校やセミナーで環境問題を解説する講師も務めている。
山本さんが「record1.5」の活動で取材したCOP27には、会議の中心となる政府関係者や報道関係者の他に、多くの活動家がそれぞれの意見を表現するため世界各地から参加する。政府関係者との意見交換会が設けられるなど、彼らは会議の参加者として扱われる。会場は人種・国籍に関係なく、気候変動への危機感を共有する人々で賑わったが、彼らの姿を日本のメディアが大きく報じることは多くなかった。「record1.5」プロジェクトの任務は、COPで声をあげる彼らのリアルな姿を映像に残し、気候変動に対する危機感を日本の人々へ共有することだ。
山本さんは「record1.5」を立ち上げた理由について、「マス・メディアは多くの人に伝えるという意味では価値を持つが、本質的なことを伝える点では、(マス・メディアではなく)アクティビストによるアクティビストのためのメディアが必要」と話す。気候変動対策を訴える運動を知ってもらうためには、マス・メディアの情報に比べてありのままに近い記録映像のほうが、より効果的だと考えた。
山本さんはCOP27で活動家たちの生の声に触れるなかで、自らが持つ日本に生まれたがゆえの加害性をより強く自覚したという。その加害性とは、気候変動による生活への影響を最も早く強く受ける人、および後の世代の人に対する加害性だ。日本の社会は高度な現代技術によって支えられているが、誤解を恐れずにいえば、その現代技術こそが危機的状況になりつつある気候変動の最初の原因だ。経済活動を阻害しない脱炭素化を現実的に議論するべき状況で、既得権益から脱却できず化石燃料に依存し続ける産業構造へ批判が集まっている。経済先進国に生きるわれわれは、そうでない国の人よりも環境に大きな負荷をかけているといえる。
もちろん、われわれは偶然日本に生まれ育ち現代文明社会の恩恵を享受したにすぎず、地球環境へ積極的に害を為したわけではない。今日まで地球環境を顧みず経済活動を続けてきた世代に対しては、若者は被害者でもあり得る。一方で、人類による地球環境への悪影響に対して、やはりすべての現代人は完全に無責任であり得ない。
「record1.5」の映像では「climate justice」という言葉が多く聞かれる。「気候正義」もしくは「気候の公平性」というニュアンスの言葉だ。「気候変動によって生じる社会的格差や理不尽に対して問題提起する」文脈でよく用いられると、山本さんは話す。「climate justice」を叫ぶ活動家の多くは、経済先進国に比して気候変動の悪影響を被りやすい発展途上国の人だ。
日本の大学生はすでに気候変動の影響を受けている人々よりも、自然環境の観点で明らかに恵まれている。発達した社会の恩恵を放棄する必要はなくとも、自らの潜在的な加害性を自覚することが求められているのではないか。
(竹之内駿摩)