夏休みがやってきた。多くの慶大生はこの期間を思う存分満喫することだろう。しかし、忘れてはならない日がある。8月15日の「終戦記念日」である。第二次世界大戦に日本が敗戦してから今年で78年目。何年経過しようと、決して風化させてはならない。

世界情勢は、昨今のウクライナ侵攻により非常に不安定である。世界平和を求める声がますます高まっている。我々は、過去の戦争を知らなくてはならない。

「戦時の慶大三田キャンパスと慶大生の状況」を調査するべく、慶應義塾福澤研究センターの都倉武之准教授に取材した。

 

戦争の爪痕残る三田キャンパス

三田キャンパスには、当時の戦争被害が残されている。代表的なのは、福澤研究センターの所在する「慶應義塾図書館旧館」だ。この建物の入口の上部には慶應義塾の校章であるペンマークを中心とした円形の装飾が刻まれている。この装飾は1945年の空襲の影響で表面が剥離してしまった。戦後、中央のペンマークのみ修復され、かつて存在した4つの円形装飾は消失したまま残された。意図的に戦争の生々しい痕跡を残して修繕されたという。

図書館旧館にはもう一つ、戦争の痕跡が残されている。それは屋根裏の折れ曲がった「鉄骨」である。上空からの空襲被害を受けた図書館旧館は、第一書庫の屋根裏が丸焼けになり、火災熱で鉄骨が歪んでしまった。2017年から2019年にかけての免震工事で発見されたこの鉄骨だが、当然、人が常時出入りする建造物としては強度に問題があり、仮にこの部分を書庫として使用するのであれば、撤去しなければならなかった。しかし慶大は「貴重な戦争の痕跡を残したい」との考えから、鉄骨の保存に踏み切った。

第一書庫の屋根裏に残された、空襲の影響で折れ曲がった鉄骨(写真=撮影)

三田キャンパスの特徴は、図書館旧館に代表される歴史的建造物と、新しい建造物が混じりあっている点にある。戦前は木造建築の校舎が多くあったが、現在では三田演説館を除いて現存していない。空襲による火災拡大を抑えるために建物を取り壊す「建物疎開」や、空襲による焼失の影響である。戦前、戦後の建物が共に建っている三田キャンパスは「統一感がない」と評されるが、その状況こそが戦争の痕跡なのだ。

 

学徒出陣と慶大生

第二次世界大戦時の慶大生が置かれた状況はどのようなものであったか。1943年の「学徒出陣」は、もちろん慶大生も対象であった。徴兵は基本的に憲法上の義務であったため、全国一律の対応がとられたのだ。1943年10月に学生の徴兵猶予が停止されると、20歳を超えた慶大生は学生生活を中断し、12月の入隊までに準備を行う必要があった。最後の2ヶ月間は、最後の早慶戦(10月16日)や文部省主催の壮行会(10月21日)などが行われた。三田キャンパスでも、慶應独自の壮行会(11月23日)が開かれた。慶大生は整列し、行進し、式典後は福澤諭吉の墓参りに向かった。他大学のほとんどが10月に壮行会を開く中、慶大は11月下旬という遅い時期に壮行会を開いた。当時の塾長、小泉信三の「最後まで勉強してほしい」との意図が理由と考えられている。

塾生出陣壮行会の日、当時の正門から出ていく慶大生(写真=提供)

 

「ペンマーク」と戦争の矛盾

慶大のシンボル「ペンマーク」は、「ペンは剣よりも強し」という学びの尊さを表す。しかし、戦時中はペンではなく剣を持たなければならなかった。ペンマークの精神と戦争は明らかに矛盾していたのだ。当時の慶大生は必ずしも諸手を挙げて戦争に協力したのではない。自由主義者として遺書を残した特攻隊員、上原良司(経済学部在学中に戦死)に代表されるように、「我々は何のために戦うのか」「何のために死ななければならないのか」と、直球で疑問を抱き、書き残した学生たちがいた。

また、塾歌の歌詞「嵐の中にはためきて」の「嵐」が指すのは、1940年に完成したことを考えあわせると戦争の時代でも「学問の旗を掲げ続けていく」という内容と見ることもでき、「ペンは剣よりも強し」のメッセージと捉えることもできるのではないだろうか。

 

見よ 風に鳴るわが旗を 新潮寄するあかつきの 嵐の中にはためきて 文化の護りたからかに 貫き樹てし誇りあり 樹てんかな

 

『ざっくばらんに議論して』ー戦争を生まないために

当時戦地へと赴いた慶大生と現在の我々はほとんど同年齢である。時代が違えば我々が戦争に駆り出されていただろう。我々は「戦争と平和」にどう向き合っていけば良いのか。重要なのは「自分の意見を表明することを自然の行為にしていくこと」だと、都倉准教授は語る。

日本の演説文化は、慶應の三田演説館が発祥と言われている。自分の考えを持つことが前提とされる演説は、デモクラシーの基本だ。

「戦争を解決する」という大きな課題にいきなり取り組むのは難しい。普段から「自分の意見を周りと交わし、異なる意見にも盛んに触れ、ざっくばらんに議論する」習慣を持つべきなのである。気軽に話し合える姿勢は、平和への第一歩だ。

平和の失われた世界情勢の中、終戦記念日をきっかけとして「慶大と戦争」を「自分なりに」考えて、話し合ってみてほしい。

 

片山大誠