慶大法学部の入試方式として毎年実施されている、総合型選抜のFIT入試。この学生を「教えたい」という法学部教員と、そこで「勉強したい」学生との良好な関係(fit)の実現を目的として2006年から導入されているFIT入試ですが、受験にまつわる情報は一般入試ほど多く流通していません。知られざるFIT入試受験の裏側について、FIT入試で慶大に合格した現役塾生2名に話を聞きました。

 

参加者A:法学部政治学科3年・中国地方出身。

参加者B:法学部政治学科2年・関東地方出身。

 

–FIT入試を志望したきっかけは?

A: 出身高校が国際バカロレア(IB)認定校だったから、もともと海外大学進学か国内大学のAO入試に進路を絞っていたんだよね。国内大学の一般入試受験は考えていなかったことと、高校時代に課外活動に力を入れていたこともあって、課外活動の実績を活かせるFIT入試を受けることを決めた。

B:大学は早稲田か慶應に入りたいと考えていたからです。海外在住経験があるので帰国子女入試も検討しましたが、在住年数が規定に満たなかったのでFIT入試を受験することにしました。

 

–受験に向けて、いつからどのような準備をしましたか?

A: 高3の9月から。出願締め切り日までギリギリだったけど、学校の先生に志望動機の言語化を手伝ってもらったり、2回ほど志望理由書の添削をしてもらったりしたかな。高校が地方だったので通える範囲に塾がなくて、AO入試対策に特化した予備校のホームページを見て情報収集をしていた。

B: 本格的な受験準備は高3の春からですが、高校1年の頃から定期試験では高い成績を取れるよう意識していました。塾はTOEFLゼミナールに通っていたので、そこで全般の受験対策と志望理由書の添削をお願いしていました。志望理由書は合計で20回ほど添削されました(笑)。塾で教えてもらえる情報の他に、高校にFIT入試で合格した先輩がいたので、話を聞かせてもらっていましたね。

 

–FIT入試にはA方式とB方式がありますが、どちらを受験しましたか?

A: 両日程受験したよ。FIT入試志願者はA方式とB方式を併願する人が多いんじゃないかな。私はA方式が不合格で、B方式で合格だった。

B: 私も併願して受験しました。私はA方式で合格したのですが、B方式は他大学との受験のため棄権しました。

 

–B方式は指定された教科と全体の成績が4.0以上であることが出願条件ですが、学校の成績は5段階中どのくらい取れていましたか?

A: 4.8前後だったと思う。最低でも4.5以上はないと、FIT入試を受ける上では厳しい印象がある。

B: 私は4.9でした。1年の頃から定期試験には力を入れていました。

 

–受験の際にはどのような課外活動・志望動機をアピールしましたか?

A: 記者になりたい」という軸に沿って志望動機を作った。進学先が慶應法学部じゃないといけない理由として、授業を受けたい教授を挙げたり、メディア・コミュニケーション研究所に入所を希望していることを話したりした。課外活動としては、ワールド・スカラーズ・カップへの出場、模擬国連の主催、ビジネスコンテストのリーダーを務めた経験をアピールした。他には、動物愛護に関するワークショップを開催したこと、学校の卒業論文でアジア系アメリカ人についての卒論を書いたことなど、行ってきた全ての課外活動を成長プロセスと捉えて、志望動機の「記者」とつながるように話の流れを組み立てたかな。

B: 「夢を諦めず努力できるような社会を作りたい」という自分の想いをアピールし、それに関連して慶應法学部で受けたい授業や師事したい教授、将来の自己像を具体的に説明できるようにしました。アメリカ・ワシントンの人種多様な地域に3年間住んでいたのですが、「努力しないのなら格差は自己責任」と見なすような、努力主義の地域性がありました。貧困層のアメリカ人が努力することさえも諦めてしまう姿を見たことが、志望動機の原体験になったと思います。課外活動は、アメリカ在住時にバンド活動や、現地の子どもを預かるボランティア、ミュージカルで大道具を担当した経験があります。帰国してからは華道部の部長を務めたり、募金活動を呼びかけたりしていたので、そちらも自己アピールに含めました。

 

–面接はどのような雰囲気でしたか?

A: 私はA方式とB方式の面接が同じ日にあったことと、面接まで3週間しか準備期間がなかったので、面接メソッドの本を読んで対策した記憶がある。A方式はいわゆる圧迫面接で、うまく答えられなくてかなり悔しかったな。B方式は提出した書類や小論文についての質問がメインだった。記者志望と伝えていたので、表現の自由やメディアに関する質問を多くされたと思う。

B: 面接を受けたのはA方式だけでしたが、2分間の自由スピーチと自己PRを求められ、その後志望理由書の内容について質問されました。夫婦同姓を中心に、社会問題について聞かれましたね。

 

–受験の上で苦労したことは?

A: 受験準備をする中で、自分が何をやりたいのか、なぜ自分でないといけないのか分らないアイデンティティクライシスに陥ったことかな。志望動機では「慶應でなくてはならない理由」を説明する必要があったので、そこでもかなり悩んだ。

B: 合格者として選ばれるために、自分の夢をそのまま話すのではなく、慶應のアドミッション・ポリシーに沿うように合わせにいかないといけなかったことです。

 

当時の併願校事情を教えてください。

A: 中央大学法学部政治学科の英語運用能力特別入学試験と、岡山大学法学部の国際バカロレア入試を受験した。

B: 早稲田大学のグローバル入試を受験しました。不合格になった場合に備えて、一般受験のための勉強も並行して行っていました。

 

–お二人が考える、FIT入試のメリット・デメリットを教えてください。

A: 課外活動の経験を活かせること。そして、自分がどういう経験を積んで、どのように糧になっているか理解できるので、自分を見つめ直す機会になることがメリットだと思う。現在就活をしていて、今でも自分の軸が変わっていないことを実感しているから。デメリットは情報が少ない分、孤独な受験になることかな。

B: メリットとしては入試が早く終わることと、一般入試と合わせて2回チャンスがあることです。デメリットとしては、自分がやってきたことが評価される入試なので、不合格になったときは精神的にしんどいと思いますね。

 

–自分の受験生時代を振り返って、反省点等はありますか?

A: 面接の対策が甘かったので、聞かれることをある程度推測しておくべきだったかな。他には、志望動機にした記者という職業への知識を仕入れておくべきだったと思う。対策を偏らせないために、学校の先生だけでなく、色々な相談先を作った方がいい。

B: 落ちたときのことをあまり考えていなかったので、一般入試の対策にもう少し力を入れていてもよかったと思います。入試の選択肢がAO一辺倒だと、不合格になったときのダメージがかなり大きいので。

 

(注)参加者は2021年度・2022年度入試受験者のため、現在の入試形態とは事情が異なる場合がございます。

山口立理