英国放送協会(以下BBC)は、イギリスの公共放送として1922年に設立された。唯一の日本人レポーターを務めるのが大井真理子さんだ。シンガポール支局から平日朝の「アジアビジネスレポート」を担当し、ラジオ局の経済ニュースキャスターも務める。
慶大環境情報学部の入学から1年で海外大に進学、海外メディアでキャリアを積んだ大井さんに聞く、日本人ジャーナリストとしての思いとは。
「映像の力で報道を」
記者を志したきっかけは、高校生の頃のオーストラリア留学で見たドキュメンタリー番組にある。ある日テレビを見ていると、アジアの子供たちが飢餓に苦しむ映像が目に飛び込んできた。BBCのドキュメンタリーだった。「日本とそう遠くないところで、悲惨なことが起きているのに、自分は何も知らなかった。内容は英語だからよくわからない。でも、映像だけでこんなに心に届く。映像の力を使った報道がしたい」。報道業界を目指したきっかけだと振り返る。
「実践的なジャーナリズムの勉強がしたい」と考え、SFCを辞めた。オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学に入学。コミュニティチャンネルのテレビ・ラジオ番組の制作に励んだ。企画からセット制作など、さまざまな経験を積む。「BBCでは、自分で全部担当する人が増えている。それに抵抗がないのは、オーストラリアでの経験が大きい」と話した。大学卒業後、ブルームバーグ(経済専門局)を経て、2006年憧れのBBCに入社した。
日本人記者として語る
「日本について世界に伝えたい」と思う一方で、「日本でしか報道できない人」と思われたくない。アジアを中心にさまざまな国でレポートを積んだ。それでも上司には「マリコは日本のニュースをやるとき、目の輝きが違うよ」と声をかけられるという。
東京五輪レポートでは、「選手が受け取る花は被災地からのもので、復興五輪の願いが込められている」というエピソードを紹介した。日本に詳しくない視聴者との知識差に気を配りながらも、日本人だからこそ伝えられるネタがある。「改元や東京五輪の際は、日本人記者として、『今この瞬間を伝えたい』という気持ちでいっぱいだった」と話した。
「完璧な自分」を求めない
「命まで取られるわけじゃない、アタックしてみろ」。最初の上司にかけられた言葉で、大井さんのモットーになっている。「『こんな人、絶対相手にされないよ』と思うかもしれない。でも、メールすればいい。返事が来たらラッキー。ノーと言われたら、他のことをすればいい」。とにかく一歩進むことが重要だと語った。
「間違っていたら恥ずかしい」では、何も行動を起こせない。「完璧である自分を求めない」ということを、海外に出て学んだという。「チャンスは待つものじゃない。自分で掴むものだ」。力強い言葉を残して、インタビューを終えた。
(飯田櫂)