2020年代初頭から猛威を振るった、新型コロナウイルス。大学の心臓部であるメディアセンターは、その時どのような影響を受け、どのように変わったのか。三田メディアセンターで「コロナ禍」を経験した、閲覧担当スタッフ友野さんに話を聞いた。
「サービス停止余儀なく」——及んだ在宅勤務の波、スタッフの苦悩
緊急事態宣言下。人々の活動は大幅に制限されたが、それは図書館スタッフも例外ではなかった。スタッフの在宅勤務により、図書・雑誌の現物を扱う業務や閲覧サービスの停止が余儀なくされた。さらに、文学部図書館・情報学専攻の司書資格取得希望者を対象に、メディアセンターで行われるインターンシップ科目も、受け入れ中止となった。
すでに整備が進んでいたリモートアクセス環境により、電子資料は提供できていたため機能停止は免れた。しかし、メディアセンターには「授業に(電子ではない)図書館資料が必要」という声が寄せられたという。
「新たなサービス」「作業効率化」感染対策がもたらした変化
キャンパス施設の閉鎖中、求められる図書館資料。オンラインながらも授業を持つ教員の要望は特に切実だった。「密」を避けながらそれに応えるため、スタッフは1週間に1度数名ずつ出勤し資料を教員に郵送。その後「貸出図書郵送サービス」「文献複写郵送サービス」「郵送返却」と、対応範囲を拡大し、現在の資料郵送といった新たなサービスに繋がっている。
来館再開後は、予約制や所属者に限定した入館制限、館内滞在時間の制限を実施。閲覧席も削減し、全部署で協力しながらアクリル板設置や消毒作業を徹底した。
電子ブックの導入もコロナ禍で加速。2016年から導入した試読型電子ブックパッケージで国内外の電子ブックを積極的に購入し、すでに定着していたリモートアクセスサービスの基盤が活きた。
スタッフの働き方にも変化が。蔵書点検作業(所蔵資料の棚卸作業)では、従来スタッフが2人1組でリストを読み上げながら書架に該当資料があるか確認していたが、感染対策のためバーコードからデータを照合する方法に変更。結果的に作業の効率化に繋がった。
ポストコロナのメディアセンターと「新たな学びの形」
入館者数は回復傾向にあり、閉鎖していたセミナー室や多目的学習室も開放。文献探索セミナーでの図書館ツアー、企画展示等も再開している。
コロナ禍特別措置として実施していた「貸出図書郵送サービス」、「文献複写郵送サービス」、「郵送返却」は、23年4月から正式な図書館サービスとなった。
コロナ禍によるオンライン授業展開から学生のPC所有率が増加したことを背景に、作業場所や充電場所の設置が急務になった。「声出しブース」といった新設備や、各閲覧席への電源設置工事を急ぐ。修士論文のPDF形式での提出が始まったことから(以前は冊子)、館内でPDFを閲覧可能なPC端末の整備も行った。
レファレンス担当が実施する各種セミナーも、コロナ禍を経てオンライン開催や利用ガイドの電子化が一気に進んだ。Zoomによるオンライン相談の試みも始まり、学びの場はどんどん柔軟になっていく。
現在は、慶應義塾が新たに導入したK-LMSと図書館システムを連携させ、新たな授業支援の形を作る試みも始まっている。ITCと共同で導入したResource Lists(Leganto:レガント)は、「授業で必要な紙や電子の資料リストを作成し、受講者に共有することができる」プラットフォームだ。
新型コロナウイルスが猛威をふるう中、学びの「場」であるメディアセンターが直面した危機は大きなものだった。しかし、それは同時に学びの新しい時代に大きく歩を進める転換点でもあった。この数年間で飛躍的に利便性を増したメディアセンター、その背景には、コロナ禍における多くのスタッフの苦悩と勘案があったことを忘れてはならない。
(三尾真子)