2019年末に感染が確認され、わずか数ヶ月でパンデミックと化した新型コロナウイルス感染症。緊急事態宣言による外出自粛などをはじめとし、日常生活にも多大な影響を与えた。
「コロナ禍で慶大はいかに変化したか」。さまざまな組織を取材すると、どの組織も困難を乗り越えるため工夫を凝らしてきたことが見えてきた。マスク着用が個人に委ねられるなどコロナ禍以前の生活が戻りつつある今、格闘の3年半を振り返る。

「緊急事態宣言」「対面授業禁止」……失われたキャンパスライフ

 慶應義塾でも、国内での感染拡大を受け、2020年の2月、「新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置し、情報収集や注意喚起などに努めた。最初に打ち出したのは授業開始時期の延期である。しかし、その後も新型コロナウイルスは収束することはなかった。そこで、慶應義塾も学内施設を閉鎖し、対面での教育活動の原則禁止に至った。本来であれば授業が開始されるはずの4月には、緊急事態宣言が発令された。

部分的な対面授業の再開へ

 コロナが完全に収束するまではかなりの時間を要すると判断した慶應義塾は、2020年度の秋学期からは演習や研究会、実習など一部の授業を対面形態でも可とした。しかしながら、諸事情でキャンパスに通学できない塾生も多く、遠隔配信を行うなど今まで経験したことがない形態を迫られた。だが、このような努力にも関わらず、再び緊急事態宣言が発令され、対面授業が中止されることも少なくなかった。

コロナ禍が導いた授業システムの変化……

 対面授業がすべてオンラインに切り替わったことにより、IT環境の改善も急務であった。従来慶應義塾が利用していた授業支援システムは安定的な使用において課題が多く、改善要望も多く寄せられていたという。そこで、2020年秋学期から一部試験的に運用を開始し、2021年度から2年間は、CANVASと授業支援システムを並行運用した。

キャンパスライフ奪還の切り札となった「職域接種」

 2021年6月1日、政府は企業や大学を対象にワクチンの職域接種について発表した。同年6月、「コロナ禍で奪われた塾生のキャンパスライフを奪還したい」という伊藤塾長の発言とともに、慶應義塾は速やかに職域接種の実施を決定した。そして、希望者の4万9320名(1回目)を対象に同年の9月15日までワクチン接種を行い、学生の8割近くが接種を終えた。

オミクロン株の登場、再び制限へ

 しかし、コロナ収束への道は平坦ではなかった。2022年、脅威の感染力を見せたオミクロン株により、再び制限を余儀なくされた。ただし、以前とは異なり、「大学・大学院における対面授業および試験を予定通り実施」することが最優先とされた。サークルなどの課外活動に関して、学生総合センターはオンライン以外の活動を全面的に自粛することを求めた。既に許可を出した対面活動の申請もすべて無効にするなど一段強固な対策を講じた。

終わっていないコロナ禍と「キャンパスフル稼働」

 2022年3月、新型コロナウイルス感染症対策本部は4月よりキャンパスフル稼働を
2023年7月20日 慶應塾生新聞会 2023年7月号(朴太暎)
実施すると発表。しかし、当時は第7波の感染拡大の懸念などコロナの収束は見通せなかった。そこで、キャンパス入構時の検温やマスク着用など、感染防止対策を徹底しつつ行動制限を緩和した。同年6月からは、学生団体についても通常の活動が許可された。事前申請を必須として、宿泊を伴う課外活動も承認された。

「5類移行」と求められる個人の判断

 2023年5月からは、新型コロナウイルスが感染症法上5類に位置づけられ、慶應義塾のコロナ対策方針も大きく変化した。マスク着用が個人の判断に委ねられ、濃厚接触の報告も不要となった。「COVID-19に特化した一律の感染症対策の終了」はコロナ禍を生きていく塾生にとって、大きな節目であった。一方で、一人ひとりの自主的な感染リスクの判断と予防対策は変わらず必要不可欠となっている。
(朴太暎)