スローガンは、「情報は、栄養。かも。」定期的に摂取するサプリメントのように、くらしと仕事に役に立つ情報をインスタグラムで1分で分かるように提供するのが、中国新聞社が2021年に始めた「中国新聞U35」だ。35歳以下をターゲットに、ウェブサイトやSNSでニュースを届けているが、共通するのは〝わかりやすさ〟だ。第5回は、同社編集局デジタルチームの武内宏介チーム長、ラン暁雨記者をはじめ5人の社員に話を聞いた。

 

読者に届けるためにデザインを工夫

 

U35設立の背景には、読者からの「新聞は難しい」という声があった。インターネットで簡単に情報が得られる今、難しいイメージがある新聞は忌避されてしまう。新聞の作り手側から読者にアプローチする必要性を感じたという。

U35のインスタグラムページを訪れると、色とりどりの画像を背景にした白い文字の見出しが配置されたサムネイルが並ぶ。G7の投稿をタップしてみる。2枚目の画像には、広島を訪れた7カ国の首脳がイラストと共に紹介されている。2枚目以降の画像では次々と、招待国や討議のテーマがイラストや動画とともに短い文章で伝えられている。

中国新聞U35インスタグラムより

 

一つの投稿を見終わるのに1分もかからず、次々に他の投稿に移ることができる。「(投稿の)下書きは記者が作っていて、デザイナーがそれに合わせてデザインしてくれる」と、デジタルチームの西原千尋さんは話す。サムネイルが並んだ時の統一感を意識して、使用するフォントや文字サイズは揃えているという。強調したい文字を大きくするなど、読みやすい投稿にする工夫は細部にまでわたる。「ダサいと思われたらスルーされちゃうのかな」という不安もあるそうだ。

記事自体にも、記者を身近に感じてもらうための工夫がある。例えば、「中国新聞記者に聞いた広島の推しグルメ総選挙」という記者が表に立つ企画を実施した。「若い記者が記事に登場することで若年層の読者の共感を呼ぶのではないか」という思いがあったからだ。

 

まずは知ってもらい、ファンを増やす

 

葛藤もあった。紙の新聞を読まない人にデジタルでアプローチをしたい一方で、紙の新聞も守っていきたい。しかし、ニュースを届け続けるには中国新聞をより多くの人に知ってもらわなければならない。「報道機関は社会のインフラとして絶対必要だと思う」と武内さん。

若者に中国新聞を知ってもらう手段の一つに、SNSのフォロワー拡大がある。インスタグラムでは、企業や行政とコラボした広告案件やプレゼント企画を行っている。キャンペーンを通じてフォロワーを増やし、中国新聞を知ってもらう。投稿などを見てもらう機会を増やして、中国新聞のファンを増やす狙いがある。広告案件の獲得によるマネタイズも視野に入れている。

 

読者との”ズレ”を埋める

 

新たな発見もあった。例えば、1945年8月6日の広島への原子爆弾投下の基本的な情報をまとめたインスタグラム投稿が、予想以上に読者に届いたという。硬いニュースでも、工夫をすれば読んでもらえるのだと気付いた。読者と同じ目線を心がけているそうで、「読者が離れているのではなく、新聞の方が読者から離れている可能性もある。自分たちがずれていることに気付いていなかった反省もある」と武内さんは話した。

武内さんは「否定しないというのはすごく大切」と語る。各記者が面白いと思っていることを否定せず、「そういうのもあるんだ」と肯定していく。読者との”ズレ”を埋めるために、さまざまなアイデアを取り入れることが重要だ。5月に開催されたG7広島サミットについても、概要やリアルタイムの情報をわかりやすくウェブサイトやSNSで届けた。武内さんは「デジタルと紙の両方を進めて、中国新聞のファンを増やすのが目標」と意気込んだ。

 

山下和奏