「五月病」という言葉を聞いたことがあるだろうか。新学期が始まり、環境の変化への適応が求められる5月。この時期は、学生の誰もが期待を抱くと同時に、不安を感じていることだろう。今回は慶應義塾大学保健管理センターで精神医学を専門とする佐渡充洋教授に、ストレスとの向き合い方に触れながら、「五月病」について話を聞いた。

慶應義塾大学保健管理センター佐渡充洋教授(写真=提供)

 

環境の変化に適応する際に「五月病」が現れる

そもそも、世間で耳にする「五月病」とは医学病名ではない。一般的に知られている「五月病」は、4月に環境が変化してからしばらくして見られるような、やる気の無さや不安感などを指すことが多い。医学的な診断で類似性が高いものは、適応障害が挙げられるが、中にはうつ病や睡眠障害などの診断がつくケースもあるという。

 

ポジティブな要素でもストレスの要因になり得る!?

ストレスの原因であるストレッサーは、事故や怪我などのネガティブな事柄はもちろん、一般的にはポジティブだと考えられるイベントもストレッサーになることがあると佐渡教授は語る。「ストレスと聞くと、私たちはネガティブな要素ばかりを考えがちですが、意外にも卒業や入学、学業や仕事での成功といった社会的に喜ばしいと考えられるイベントもストレスになり得ます」

ポジティブだと考えられるイベントでストレスを感じると、本来抱くはずの感情と実際に自分が抱く感情との間に大きな差が生じ、「嬉しい出来事のはずなのに、なぜ自分はこれほどまでにストレスを感じるのか」と自己を責めて余計に辛くなることがあるという。

 

まずは生活リズムを整えることが重要

では、ストレスに対処するにはどうしたら良いだろうか。ストレスに向き合うために必要なこととして、佐渡教授は基本的な生活リズムの確立がまず大切であると語った。睡眠時間の確保や、バランスのとれた食事、適度な運動といった健康的な生活スタイルを維持することが第一条件である。それに加え、自分自身の体調をモニターすることも非常に重要であるという。自分自身の体調がどのような状態であるかをしっかりと振り返ることで、自己の変化に気が付き、適切な対応をすることが可能になる。

 

マインドフルネスを日常生活に取り入れよう

マインドフルネスとは、現在起きている体験に気付き、それに適切に対応していくための一つの手段であると佐渡教授は語る。体験には主に2種類あり、実社会で起きていることを見聞きする「外的な体験」と、自分の思考や身体感覚などの「内的な体験」とがあるという。これらの体験にしっかりと意識を向け適切な対応を行うことがマインドフルネスである。ストレスの軽減や日々の生活の充足感・充実感が増す等の効果が期待できるらしい。

マインドフルネスを簡単に日常生活に取り入れるには、3分間ほどの瞑想が良いそうだ。呼吸に意識を集めることで、自分自身の体の状態に気づくことができる。他にも、じっくりと味わいながら食事を摂ることもマインドフルネスに当てはまるという。

 

塾生へのメッセージ

「新しい環境に適応することは、それ自体がストレスとなりえます。ネガティブな環境変化だけでなくポジティブな環境変化にもストレスを感じるということを自覚することが大切です。また、過剰適応には注意が必要です。ポジティブな環境変化で頑張りすぎてしまい、後で反応が出ることがしばしばあります。衝動的になりすぎず、バランスをとりながら新しい環境に馴染んでもらえたらと思います」

 

【プロフィール写真説明】

佐渡充洋(さど・みつひろ)教授

慶應義塾大学保健管理センター教授。専門は、精神医学(認知行動療法、マインドフルネス)、産業精神保健、学校精神保健、医療経済学。編著書に『マインドフルネスを医学的にゼロから解説する本』(2018,日本医事新報社)などがある。

 

(高梨怜子)