「対話できるAI」が一世を風靡している。ChatGPTだ。ユーザーがテキストを送ると、数秒でテキストの応答が返ってくる。2022年11月30日にリリースされて以降、全世界のユーザー数は約2か月で1億人を突破した。インスタグラムが約2年半を要したことを考えれば、驚異的なスピードだ。AIサービスの普及が進むことで、どんな時代が到来するのか。我々はどんなスキルを学びどう生きるべきなのか。環境情報学部の安宅和人先生に話を聞いた。
「誰でも使える」革新性
「マイクロソフト社が、開発元のOpenAI社に100億ドルの投資をすると発表しました。ビルゲイツも注目しています。これ、本当にすごいことですよ」
そもそも、ChatGPTは何が革新的だったのか。安宅先生によれば、「誰でもAIと対話できるようになったこと」だという。「ChatGPTは、自然で融通の利いた対話ができます。こうしたAIは文字や画像を生成するジェネラティブAIといい、もともとAIはこの分野で進化してきました。今まで使えるのは一部の人だけでしたが、誰でも使えるようなったことで衝撃を与えています」
インターネットさえあれば、誰でもChatGPTを使うことができる。メールを書くのが面倒なら要件を箇条書きして「メール文を作って」と送ればいい。献立を考えるのが面倒でも、冷蔵庫にある食材を教えればレシピを提案してくれる。クリエイティブな分野では、キーワードを与えれば小説を書いたり詩を作ったりすることもできる。プログラミングのコードを書くこともできる。
AIは仕事を「増やす」
「AIに仕事を奪われる」ことが現実味を増してきたと感じる読者もいるだろう。この先、どんな時代が到来するのか。
安宅先生は、まず「仕事は”減るどころか爆増する” 」と断言する。「”そろばん”というものがあります。計算する時に便利でした。それが今では、電卓やコンピューター、Excelが登場してもっと便利になりました。だから皆さんは、Excelの関数に頭を悩ませています」
そろばんを使う仕事はなくなったが、代わりにコンピューターに関する仕事が無数に誕生した。イノベーションで今あるものが淘汰されると、新たに実現したものが次の仕事を増やしてゆく。
今では、コンピューターが使えないとできる仕事も限られてしまう。安宅先生は、「AIでも将来必ず同じことが起きる」と話す。「SFCの僕のゼミでは、ChatGPTがリリースされた直後の数日のうちに学生には”徹底的に使い倒せ”と伝えました。使えない人は淘汰されていきます」
求められるスキルは
では、今後ChatGPTを始めとしたAIツールを使うために求められるスキルとは何か。安宅先生は、「知りたいことを言語化できることに加え、自分で価値判断すること」の重要性を強調する。「AIは従来あるテキストを学習して応答します。その中には、間違いやアップデートできてない部分も多く含まれる。それに気付ける人間かどうかの違いは大きいですよ。教養がますます重要になってくるということです」
もちろん、人間の役割はミスの指摘だけにとどまらない。「結局、指示を出すのは人間じゃないですか。初めに人間が頭の中でイメージしたものを、AIが再現してくれる。そのアウトプットが優れていたとしても、自分の思い描いていたものかどうか分かるのは人間です」。自分が求めるものを明確に思い描いて、自分の価値基準で評価できることが重要だ。
意思がある限り負けない
「はっきり言って、ChatGPTの言うことって面白いですか。つまらないですよね」。ChatGPTは、既存のテキストや規範を学習して模範的な応答をしてくれる。理路整然としているが、そこに驚くような創造性や新たな発見はない。安宅先生は「クリエイティブな飛躍が得意なのは人間」だと言う。「AIはあくまでも便利なツール。教養を身に着けて自分なりの価値観を持っていれば、そんなに心配することはありませんよ」そのためには、豊かな経験を積むことだ。
「 “Go Wild!” 興味があることに挑戦して、本もたくさん読みましょう。意志がある限り負けません。教養人へ!」。安宅先生は最後に、塾生へのメッセージで締めくくった。
(和田幸栞)
【プロフィール 写真説明】
安宅和人(あたかかずと)先生
慶大環境情報学部教授。Zホールディングス株式会社 シニアストラテジスト。ほか、内閣府総合科学技術イノベーション会議基本計画専門調査会委員、官民研究開発投資拡大プログラムAI技術領域運営委員など。著作に『イシューからはじめよ』(2010,英治出版)、『シン・ニホン』(2020,NewsPicksパブリッシング)