俺はずっと…、誰かとの関わりの中で幸せを知りたかった…!」
独白が舞台に響き渡る。孤独は自ら選んだ道だったのか?違う。本当は人と喜び悲しみ感情を分かち合いたい。ずっと気付かないふりをしていた、本当の気持ちだった。
「創像工房 in front of.」は第64回三田祭にて『三田祭公演2022』を上演する。同団体は、演劇からお笑い、映像など多岐に渡るエンターテイメントを制作する公認団体だ。2日目となる11月21日(月)は、15時より第一校舎103教室にて「人生、途中乗車」を45分間上演した。今回の三田祭では、同作品と「魔術の舌」2作品の公演を行う。両公演とも、今年度新たに入会した「一年代」(新入生)のみで一から作り上げた。
漫画家を目指す「鈴木」は、連日出版社に作品を持ち込むもダメ出しを食らってばかり。かわいい彼女はもちろんのこと、仲間も持たず1人で偏屈な性格を抱え込む。自分を差し置き人気作を生み出す年下にコンプレックスを感じる日々。そんな中、うっかり者の死神は間違えて彼の魂を奪ってしまう。嘘だろ、まだ漫画を描いていたいのに___。提示された「生き返る条件」は、ピンク髪の幽霊少女「みゆてゃ」を成仏させること。「陰キャ」の鈴木と、かわいくて強気なみゆてゃ、2人は関わりを通して自らのコンプレックスに向き合っていく。
「自分の夢は本物だろうか?承認欲求ではないのか?」「愛されたい。自分を一番に愛してくれる人がいてほしい。」互いのことを知らないから羨ましい。羨ましくて自分だけが惨めに思える。「君に何が分かるんだ!」
5人のキャストが演じ分けるそれぞれのキャラクターは、コミカルに、時にシリアスに自らの胸の内を語る。自分のコンプレックスに向き合い、ぶつかり合い、傷つく。悩み抜いた先で、自分の本当に想いに気が付く。
満席となった会場は、冒頭ではコミカルな動きや言い回しで何度も笑いに包まれた。場面に合わせて、プロジェクションマッピングを用いた映像や音響、舞台効果が取り入れられた。展開と共に、会場は物語に引き込まれ、最後には熱気と共に大きな拍手が起こった。
演出と脚本を担当したのは楊文果。公演前に事前に配布されたパンフレットに記載された紹介文は以下の通り。
「我々青年が抱えがちなアイデンティティや承認欲求、自己肯定の悩みをポップとコメディでラッピングした本作を執筆しました。好きなものが自分を構成するのか、自分を構成したいから好きなものにしがみついているのか。安心するために答えた将来の夢や、認められたくて誇示してきた長所。そういった弱さと一つひとつ丁寧に向き合い皆で作り上げたこの劇が、どうか私のためだけの物語で終わりませんように」
公演は、「魔術師の舌」と共に三田祭最終日の昼まで連日行われる。
(田畑海登・和田幸栞)