一人でも多くの観客を巻き込む
「勝つぞ!勝つぞ!慶應!」。塾生なら六大学野球などで必ず目にしたことがある、慶大應援指導部のチアリーディング部メジャレッツ。
華々しく光の当たる応援ステージだが、試合の主役は体育会の選手。彼らのために応援活動をすることが主な活動だという意味では、陰から支える存在でもある。
そんなメジャレッツが目指す所は、甲子園の高校生チアガールのように単に選手を応援することではない。「応援」を「指導」することに徹し、一人でも多くの観客を応援の渦に巻き込むことだ。
練習場に入ると部員全員が整列し、笑顔と挨拶で迎えてくれた。スタンツ(リフトやジャンプをする組技)の基礎やダンスなど、分刻みでびっしりと埋まった練習メニュー表。3学年あわせて28人の部員を練習時にまとめるのはトレーニングチーフの菊地原杏菜さん(理4)だ。
「同じサイクルで過ごす仲間と一緒に、自分が所属する慶應というグループを応援することって、すごいこと。今しか出来ない幸せなこと」。これはいろいろな立場の人が集まる社会人チームにはない魅力だ。
週5回の練習や応援活動など長い接触時間の中でチアリーディングに不可欠な信頼関係を築いていく。チームスポーツという特性上、ポジションや配置が決まっている。「誰が欠けても成り立たない。だからこそ、みんなでいる時間を大切にして、練習にはベストコンディションで臨めるように普段から心がけている」そうだ。
メジャレッツにはチアリーディングの経験者がほとんどいない。ダンスやバトンをやっていた人は多いが、運動自体が初めてという人も所属している。
「実力に個人差がある中で、練習をどこのレベルに合わせるかは悩ましい所」。実力を超えた無理をしすぎてはケガが多発してしまう一方、上級者の技術の向上も欠かせないからだ。
現在、チアリーディングは応援を主体とした団体と競技を主体とした団体があり、メジャレッツは前者に当たる。競技の大会にも出場することがあるが、競技を中心に活動する団体とは参加の目的が違う。「自己満足で終わらせずにいろいろな方に評価してもらうことで、よりよい応援活動をするため」だ。
ラグビーなどの試合で行われるハーフタイムの応援パフォーマンスにはそんな日々の努力が集約される。「私たちのパフォーマンスで湧いたその気持ちのまま、お客さんに後半の応援をしてもらって、それが選手の力へと繋がってほしい。それで少しでも勝利の助けになるのであれば、応援の力ってすごいのかなって思う」と目を輝かせる。野球の応援指導とはひと味違うが、応援の力を観客に乗せて選手へと届けるという考え方は同じだ。
その応援の力を最大限につくり出していくために、練習中に活を入れることもあるそうだ。「自分が努力して伸びても、みんながついてこなかったら、それはチームワークじゃない」。学年が上がるにつれて、個人よりもチームとしての足りないものに目を配ることを心がけるようになったという。
「元気・勇気・笑顔」を合言葉にメジャレッツと共に歩んだ3年間。最後の1年となった彼女は集大成となる12月の定期演奏会について、「さみしさ、達成感、やっと終わった、いろいろな気持ちが湧くんじゃないかと思う」と思いを馳せたが、「打ち込みすぎてまだまだ想像できない」と言葉を弾ませた。
メジャレッツが興す応援の力は必ずや選手の力へと変わるだろう。今を必死に生きる彼女たちを応援したくなった。
(井上史隆・井熊里木)
編集後記…
女の人しかいない練習場に男二人で取材しに行った。カメラを持って。
緊張していたぼくらが入ろうとすると箒で鍵がかけてあった。10分間
は立ち尽くしただろうか。やがて気付いてくれたメジャレッツの方が木
製の重い扉を開けてくれた。
笑顔で迎えてくれただけでバレンタインデー3年分うれしかった。
練習中、終始笑顔のメジャレッツ。チアリーディングのための笑顔だ
けではなく、自然に楽しそうだった。
「1年生は準備をする」など最低限の約束事はあるものの、菊地原さ
んも「みんなからの意見が大事」と語ったように、上下関係は厳しく
ないようだった。ただ、應援指導部全体での練習の時は少し緊張感が漂
うようで、「そこはメリハリをつけている」そうだ。
練習はランニングから始まり、ブリッジ走や側転、筋トレに柔軟など、
体育会顔負けの努力をしていた。華やかさの陰でのその姿勢も美しかっ
た。
菊地原さんは個人的に、アメリカンフットボールの応援が一番好きだ
という。チアリーディングはアメリカンフットボールから始まった。ハ
ーフタイムのパフォーマンス以外に、試合中にもプレーが止まった時に
短い演技があるそうで、そのあたりがお気に入りだという。
また、彼女たちの引退試合となる定期演奏会は12月に渋谷CCレモン
ホールで開催する。「一度見たらハマるらしい」そうなので、皆さんも是
非。