慶應義塾の運営上、塾生は最大の利害関係者だ。本連載は、昨今の大学ガバナンスの議論を踏まえ、慶大に係る動向に焦点を当てる。

文部科学省特別委員会――執行と監督の分離

3月22日、文部科学省の学校法人制度改革特別委員会は、私大等に係る法改正を念頭に入れた具体的方策に関する報告書を取りまとめた。文科省は報告書を踏まえ、今国会で私立学校法改正案の提出を目指す。

日本の高等教育を支える私立大学が、教育・研究機関として国際的に低迷していることや、ガバナンス不全による不祥事とその再発防止への懸念の高まりを背景に、「執行と監督の分離」が議論された。中でも、評議員会の監督機能強化に焦点が当たる。現行の私立学校法上での評議員会は、大学運営の執行を代表する理事長(慶大では塾長と兼任)が、「業務の重要事項に関して意見を聴取する諮問機関」とされる。そのため、理事会に対する制度上の監督機能の弱さが指摘されていた。

そこで当初の改革案では、理事(学校法人の業務を執行する存在)の業務に対する監督機能強化を目的とし、評議員会を、最高監督、議決機関と位置づけ、学外者のみで構成するよう求めた。他にも、理事や理事会、監事(学校法人の業務・財産・理事の業務遂行を監査する存在)の選任・解任を評議員会が行うこと、評議員と理事の兼任不可等が掲げられた。

日本私大連盟の反発――自律性

一方で、2021年10月5日、慶大も所属する一般社団法人日本私立大学連盟(私大連盟)は、この改革案を受け、評議員会の役割・意思決定のスピード・学内の対立構造の三つの観点から対案を提出した。具体的には、学外者のみが評議員会を構成する方針に対し、教育研究の是非の判断が困難だとして「学外者を一定割合以上確保」すること。また、ガバナンス・コード(統治上のガイドラインとして参照すべき原則・指針)については「法律で一律に規定せず、学校法人の自律性」に委ねる、などを提案した。

文科省特別委員会や私大連盟等との議論の最終的な報告書では、法人の基礎的変更(任意解散・合併、それに準じる程度の寄付行為の変更等)について、理事会の決定に加え、評議員会の決議を要すること。また、各組織(評議員会、理事会、監事)の役割を明確にし、ガバナンス機能の実質化を図るべく、理事と評議員の兼任は禁止する方針で法整備へと向かうことになった。

慶大 常任理事や学部長等を除く13名の兼任

他方、慶大はどうか。2022年4月1日時点、13名の理事と評議員の兼任が確認された。慶應義塾規約によると「大学その他の学校の教職員のうちから互選された者」を除く評議員として選出された塾員であれば、理事との兼任が制度上可能だ。

しかし、理事と評議員の兼任は、文科省特別委員会、私大連盟共に「禁止」の方向で一致した。規約改正等、私大連盟策定のガバナンス・コードに準拠する慶大の動向が注目される。

(小野寺陽大)