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「いまやグローバル化は成熟し、多様化の時代に入ったといえるのではないでしょうか。世界に何かを届けようとするのは、多くの人々にとって当たり前になってきています。自分たちの文化や価値観を発信しつつ、それぞれの国や文化の考え方を学ぶことが出来れば、次の時代は更に刺激的なものになるはずです。僕らの仕事はそういう可能性を秘めていると思います」
この様に語るのは、株式会社円谷プロダクション(以下円谷プロ)の塚越隆行会長兼CEOだ。『ゴジラ』を手掛け、「特撮の神様」と呼ばれた故・円谷英二が1963年に設立した円谷プロは、『ウルトラマン』をはじめとした作品群を制作。それらは海外でも大きな人気を誇っており、ハリウッドの巨匠たちの多くも、シリーズのファンであることを公言している。
「当社の創業者である円谷英二は始めから世界を見据えていました。ただ『ウルトラマン』を作りたかったという訳ではなく、自分たちの作品を通じて、平和・愛・希望をすべての人に届けようとしていたのです。そこに日本人や外国人といった区別はありません。彼の言葉の中に僕たちの進むべき未来があるような気がします」
目次
自分探しの日々
‘17年に円谷プロへ入社する前から、様々な形でエンターテインメント業界に関わっていた塚越会長は、それを実践していた。だが、大学時代までの自身はどこにでもいるような普通の少年だったという。
「僕はごく普通の子どもでした。世間一般の他の子ども達と同じです。4歳のときに放送されていた『ウルトラマン』も観ていました。特に何が好きかと聞かれれば、空を見上げるのは好きでしたよ。星が好きだったので、小学生の頃は天文学者になろうと思っていました」
大学受験の際も、親の意向を優先した進学先を選んだ。早稲田大学の教育学部だ。
「父親は、僕に教師になってほしいと考えていたので、教育学部を選んだのです。慶應はセンスの良い人が行く、ハイカラな場所というイメージがありました。僕の高校はどちらかというと田舎のバンカラというイメージだったので進学するなら早稲田かなと(笑)。18歳で大学受験をしたときには、親の望んだ道を歩いていました」
だが、大学時代に思わぬ形で、現在に繋がる「出会い」があった。塚越会長が「後の人生に大きな影響を与えた」と振り返る、ミュージカルのアルバイトである。
「当時、渡辺ミキ(現・ワタナベエンターテインメント社長)さんが企画した舞台にアシスタントとして参加しました。そこでぼくは2本ほど舞台の制作に携わったのです」
実際に目の前で喜ぶお客さんたちの姿を見た学生時代の塚越会長。エンターテインメントの世界に興味を持ち、その魅力に惹かれるきっかけになったのだという。
「時間もあったので勉強や遊びなど色々なことをやりました。大学時代は、自分が本当にやりたいことを探していた時間だったのではないかと思います」
ディズニーでの出会い
大学を卒業した塚越会長は、エンターテインメント業界で働きたい一心で、広告代理店へと就職。その後さまざまな職を経験し、やがてディズニーへと入社する。
「ディズニーは本当に素晴らしい会社でした。自由な空気があり、多くの経験をさせてもらえました」と語る塚越会長。そこでは、素晴らしい作品だけでなく、クリアなビジョンが社内で共有されていた。そして何よりも、多くの人との「出会い」があったのだ。
「ディズニーの社内・社外を問わず、多くの人たちと出会いました。その中には、スタジオ・ジブリの皆様との出会いも含まれます。糸井重里さん(エッセイスト)や、現在の円谷プロの親会社であるフィールズ株式会社の山本会長とも親しくなりました」と塚越会長。
また、塚越会長が在籍した26年の間に、ディズニーのCEOが交替している。二人のトップから塚越会長も沢山の刺激を受けた。
「最初はマイケル・アイズナーさん(※ABCを買収。他企業を巻き込んだプロモーションを展開)という方がCEOでしたが、僕の在籍中にCEOがロバート・A・アイガーさん(※ピクサーやルーカス・フィルム等を買収。ジョン・ラセターを招聘)という方に交替したのです。僕はそれによって会社が変わっていくさまを目撃しました。トップが何を考えるかによって、自分たちのやれることや、会社の文化が大きく変わるのだなと感じましたね。僕はこのお二方から多くのことを学びました」
世界へ届ける
ディズニーでの経験と出会いから、多くのものを得た塚越会長。今はそれを還元し、日本と世界のエンターテインメント業界に貢献したいと強く思っているのだという。
「エンターテインメントというものは、作品を通じて人に多くのものをお届けできる仕事です。ディズニーでの経験は僕にとって非常に勉強になりました。それを通じて円谷プロであり、日本のエンタメであり、に何らかの形で貢献したいと思っています」と語る塚越会長。
その中には、日本由来の作品を世界に届けるという視点も当然ふくまれている。
「今日、グローバルにビジネスを展開する際に、『多様化』という観点がとても大切だと考えています。欧米の考え方には非常に良いものがあって、学ぶべきことがあります。’60~’70年代の成長期のなかで、僕たちはアメリカ文化の影響を色濃くうけてきました。アフリカや南米など、他地域の文化にもたくさんの魅力があります。同様に、僕ら東洋や日本のもつ良い点も、お届けしたいという気持ちが強いです」
日本的なヒーロー像
お互いの文化や価値観から学びあえる時代において、エンターテインメントという見地から、自分たちの文化の良さをどのようにして共有していくべきか。塚越会長が辿り着いた答えのひとつが『ウルトラマン』だった。ゼネラル・マネージャーを務めていたウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンを去り、2017年、塚越会長は円谷プロの社長に就任する。
「実は『ウルトラマン』のなかに東洋や日本の価値観が多く織り込まれているのです。ひとつの身体のなかにウルトラマンという異星人と、人間が共存しているという点はきわめてユニークです。僕が作品を通じて強調したいのは、人と人、人と自然、人と宇宙がどのように共存していくべきなのかという点です」
スパイダーマンやアベンジャーズをはじめとするマーベル・コミックスの作品。バットマンやスーパーマンに代表されるDCコミックスの作品など、欧米にも数多くのヒーローが存在する。だが、ウルトラマンは彼らと少し異なるというのが塚越会長の意見だ。
「どちらにも魅力がありますが、欧米のヒーローが個人の葛藤と成長を描いているのに対し、『ウルトラマン』では、個人の周囲のコミュニティをふくめた共存の仕方に意を払いたいと考えています。異なる考え方が反目しあうのではなく、理解しあうことで、新たな価値が生まれるという精神が作品の根底にあるのです」
円谷プロのプラン
では実際、どのように作品を世界へ届けていくのか。塚越会長には主に2つのプランがある。
「ひとつは、アメリカのクリエイターたちと共に作品を作るという試みです。アメリカ等の従来のヒーローと差別化された、円谷プロならではのヒーロー像を作っていくというプロセスは、僕らにとって非常に大切だし、それが今、大きな経験になっていると思います」
その第一弾として、CGアニメ長編映画『Ultraman』の制作が昨年5月に発表された。Netflixと円谷プロの共同製作作品であり、『スター・ウォーズ』や『ジュラシック・パーク』、『アベンジャーズ』等のビジュアル・エフェクトを担当したインダストリアル・ライト&マジック社も制作に携わるという。
「公開日はまだ発表していませんが、とても面白い作品になると思います。グローバルな作品ではあるものの、日本の東京が舞台になるし、主人公は日本人です。その中で、僕らの考え方をしっかり表現できるのではないかな。これは海外のクリエイターたちとグローバルに作っていく、“海外発”のウルトラマンという形になると思います」と塚越会長は力強く語る。
第2のプランは前者と反対方向からのアプローチだ。
「もうひとつ考えているのは、“日本発”のグローバルへの展開です。その中では、非常に分かりづらいかもしれないけれども、日本や東洋の文化・考え方に根ざした作品を、少し際立った形で海外に発表してけるかなと。グローバルに対して、ローカルの良さを伝えていけると思う。今後の展開は、この2軸で考えています」
多様化の時代の働き方
「もしかすると西洋や東洋とわけるべきものではないのかも知れない。日本の文化だけが素晴らしいという訳ではありません。ヨーロッパやアフリカ、アジアや南米など、色々な地域に色々な習慣や文化があって、それらからも学ぶべきところがあります。それぞれの考え方をみて、知って、経験して、自分が考えるというのが面白いという時代になっていくでしょう」と話す塚越会長。
現在、国境を越えた共同作業は当たり前になりつつあると会長は肌で感じている。
「日本は長らく国内だけで仕事が完結することが多かったのですが、海外では多様な国の人々と共に働くということを普通にやっていた人が多かった様に感じます。もちろん、日本にも多くの天才作家たちがいます。ですが、ディズニーにいたとき感じたのは、ジョン・ラセターという中心作家がいながらも、共同作業で優れた作品を制作していたということです。僕が目指すのは日本や海外などの区別なく、良いものを作っていくための仕組み作りです」
塚越会長が重視する、よりよい作品を制作するための環境。それを整えるビジネス型のリーダーやプロデューサーが、若い世代から育ってくることを期待しているのだという。
「近年、隣国の韓国では、映画や音楽など、世界の人々に支持される作品が続々と出てきています。日本にも、小津安二郎監督や黒澤明監督など、グローバルで評価されているクリエイターたちがいました。私たちが世界へ進出できる仕組みを構築するためには、もう一踏ん張りが必要です」
この先の時代へ
多様化の時代においては、更に良いものが生まれるのではないか。塚越会長はこの先の未来にも期待を寄せる。
「現在、地域や文化の垣根はなくなってきています。共に良い価値観を共有しあえるのです。 “協業”のやり方を円谷プロとしても学んでいきたいし、世界中の人々に喜んでもらえるような作品を作れるようになりたいです」と語る。
また、今後数十年のあいだに、映画やエンターテインメントのあり方も変わっていくのではないかと、長年エンタメ業界の前線に立ちつづける塚越会長は予想している。
「現在はハリウッド中心の映画業界ですが、このモデルは彼らが中心となって壊していくのではないでしょうか。今までのエンタメ業界は、マーケティングが進んでいて、どうライバルを負かすのかという部分が大きかった。でも、そういうことじゃなくてね。良いものを共有して、ブラッシュアップさせて、それを観てくれる人々に届ける。シンプルだけれども、それが一番大事なことだし、一番強いのではないかと思います。円谷プロはそう意識するし、そのような考えを持つ人が増えてくると思います。必ずそうなっていきますよ。僕らが今動き出すのは非常に良いタイミングだし、ローカルもグローバルも期待して良い時代とマーケットだと思います」
同時に、未来の文化・エンターテインメントのためには、世界へ羽ばたき、未来を担う若い世代の力が必要不可欠だ。塚越会長も今日の学生たちに大きな期待をよせる。
「是非、若い学生の皆さんにはエンターテインメント業界に興味を持って、私たちに力を貸していただきたいと思っています。文化や産業というものは継続していくものだし、バトンタッチが必要なものです。自分たちの考え方を世界の人々に観てもらいたいという、同志のような人々が育っていってくれることを望みます。また、既に社会人の皆さんには、僕たちがどのように考えているかお話ししましたが、これは社員150人ほどの円谷プロだけで出来ることではありません。違う仕事や領域でも、この記事を読んだときに感じたことを元になにかアクションを取っていただけたら嬉しいです」
【プロフィール】塚越隆行
早稲田大教育学部卒。’10年ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンGMに就任。日本映像ソフト協会理事などを歴任。‘17年に円谷プロ社長、19年に同社会長兼CEOに就任
トランスメディアP ジェフ・ゴメスさんの記事も併せて御覧下さい
次回は第3回です
(石野光俊)
※連載《ウルトラマンと戦後日本》過去の記事はこちらから
第1回 故・飯島敏宏監督前篇はこちらから
第1回 故・飯島敏宏監督後篇はこちらから
本記事で触れた作品たちを是非一度ご覧下さい
円谷プロが提供するサブスクリプションサービス「TSUBURAYA IMAGINATION」にて
『ウルトラマンシリーズ』各種作品配信のほか、MARVELコミックス「ULTRAMAN」各種シリーズ日本語版独占配信中
https://m-78.jp/qr/?p=dTlIsQ
慶大出身、故・飯島監督の過去のインタビュー映像はこちらから。
沖縄・南風原町出身の脚本家、金城哲夫氏のWeb資料館です。
https://www.haebaru-kankou.jp/index.php/kinjo-web-museum.html