「いくつかトラブルはあったものの想定内で、まずまず順調に進めることができたかな。オンライン開催という無茶な決定についてきてくれた実行委員に感謝したい」。こう笑顔で慶應連合三田会大会を振り返るのは大会実行本部長の野間省伸氏(講談社代表取締役社長)だ。慶應連合三田会大会や、慶應義塾という組織、さらにはリーダーシップをテーマに話を聞いた。

 

まずは、つないでいく

完全デジタルでの開催となった今回の慶應連合三田会大会。はじめはオンラインとリアルの併用で開催を予定していたという。

「今年の1月、新型コロナ感染拡大を受けてオンラインのみでの開催を決めました。はじめは『オンラインで何ができるのだろうか?』というのが私も含めた周りの反応ではありました。ただ、開催形式がどうであれまずは継続していくことが重要なことだと考えました」

その際、追求したのが「オンラインならでは」という観点だ。「リアルとオンラインで同じ企画をやれば、リアルの方が楽しいに決まっている。オンラインでしかできないことは何か、ということを常に意識して準備を進めました」と野間氏は語る。地方や海外に住む塾員も気軽に参加できるようになり、大会券も紙媒体とデジタル媒体の2種類用意するなど大幅に参加ハードルを下げた。「これまでリアル開催でできなかったことを初めて実現できたことは来年度以降にもつながるだろう」と野間氏は振り返る。

来年度以降はリアル・デジタルのハイブリッド開催も考えられる。今回、デジタル開催で得たノウハウをここで止めるわけにはいかない。「10個、20個下の後輩が社中の絆を感じられるという意味で、慶應連合三田会大会は残していくことに意味がある。我々の自己満足の大会になることなく、しっかり後輩につないでいきたい」

 

三田会は人がつくる

慶應連合三田会大会はその名の通り、例年は塾員が一堂に会することで、ある種の同窓会の役割を担う。三田会という組織について野間氏は次のように話す。

「大学に対して強い愛校心を持った人が多いですね。そういった友人からイベントに誘われ、これまで知らなかった同期と出会えたりする中で、自然と愛校心が芽生えてくるなと思います」

自然な形で交友関係の輪が広がり、それに伴い愛校心も強まってくる。それが三田会の良さだという。ただ、愛校心が全てではない。

「質の高い友人関係や上下関係が三田会という組織をより良いものにしていくのかなと思います。イメージは、バーの『客が店を作る』という形態に近いですね(笑)」

慶應連合三田会大会をはじめ、卒20年後以降は同期と再会できるイベントが5年ごとにあるというのも慶應義塾ならではの文化だ。「うまくできている組織なんですよ(笑)。それだけの頻度で集まれば交友関係は自然と広まりますよね」と笑顔で野間氏は話す。

 

信頼は傾聴から

今回の大会では実行本部長を務め、講談社では代表取締役社長の野間氏。リーダーという立場に立つ人に必要とされる素質は何かと聞くと、野間氏の答えは「信頼してもらうこと、相手を信頼して任せること」というものだった。信頼されるリーダーになるためにはまず信頼を醸成していくことが不可欠だが、その際に野間氏が大切にしていることがある。

「相手の話をよく聞くこと。これは意識しています。最終的な意思決定をする上で、何も言わずにトップダウンで物事を進めることもできる。ただ、うちの会社(講談社)では、人の感情に訴える仕事をする上で、魂が入っていなければよい作品を作ることはできない。真摯に反対意見も聞いたうえで、彼らも納得する決定を下すようにしています」

現場がいいものを作り上げられる環境を作るのがリーダーである自分の仕事だと思っていると野間氏は静かに話す。最後に、未来のリーダーとなる塾生に向け、次世代のリーダーに必要な素質を聞いた。

「グローバルな視点でしょうね。今の日本は米国からの情報に偏りすぎている面がある。さまざまな企業が海外展開は大切だというが、一口に海外といっても地域によって大きく戦略は異なる。日本国内で満足しないで広い視野をもってほしいなと思います」

 

 

【プロフィール】

野間省伸(のま・よしのぶ)

1969年生まれ。
東京都出身。

1991年春に慶大法学部政治学科卒業後、三菱銀行(三菱UFJ銀行の源流)に入行し、1999年1月まで同行にて働く。1999年2月、母親(野間佐和子)が経営する大手出版社・講談社の取締役に就任。講談社の副社長を経て、2011年3月に講談社7代目社長就任。

 

(水口侑)