12月6日・vs日大 85-95 ●
優勝 日本大学
2位 慶應義塾大学
3位 青山学院大学
3位決定戦では青山学院大と東海大。前半、青山学院大が4点リードするも、なかなか点差を開くことが出来なかった。しかし、青山学院大の♯16比江島の連続得点がきっかけで流れを掴んだ青山学院大が3位を勝ち取った。決勝戦は、序盤から好調なスタートを切った日大の流れを慶大が断ち切ることが出来ず、日大優勢のまま、慶大は優勝を逃した。
決勝戦。開始早々、♯1種市、♯9篠山、♯4栗原のシュートが決まり、慶大は4-11と一気にリードされた。1Q途中から♯7岩下(芝・3年)に代わりコートにたった♯15家治(清風南海・2年)。これまでにも苦しくなった時にコートに入り、得点を決めるなどして慶大に良い流れを与えていたが、この日はカタさがみられ、流れを変えることが出来なかった。
「ベンチに座っていて『岩下さんが普通じゃないな、大祐さんが普通じゃないな』と思って、バックアップとして出て行くと、悪い流れを自分の力でとめられなくて、裏目に出たんじゃないですか」(佐々木ヘッドコーチ)
控え選手が充実しておらず、修正力に欠ける慶大は、序盤から一人ひとりの良いところが出せないまま日大に優勝を譲ってしまうこととなった。特に、準決勝の青山学院大との一戦で爆発した4年生2人、♯4田上(筑紫丘・4年)、♯5小林(福大大濠・4年)は、力を発揮出来ず、日大の勢いを止めることが出来なかった。
一方、日大は怪我をした♯31上江田に代わり、急遽、準決勝の東海大戦からスタメンとして出場した♯1種市が4年生の意地を見せた。♯1種市も怪我から復帰したばかりということもあり、状態に不安があったが、東海大戦では苦しい展開から後半に巻き返して勝利した。この一戦で、♯1種市がチームにアジャストし、チームとしても自信を持って決勝に望んだのだろう。「(日大は)♯1種市の復帰でチームの連携ができていた」と佐々木ヘッドコーチが話していたように、日大のチーム力を見せ付けられた試合となった。
100点ゲームも珍しくない慶大のオフェンス力を封じ、この日は85点に留まらせた日大ディフェンス。そのキーマンとなったのが、#15熊澤だ。エース小林のディフェンスについた熊澤は、今日の試合のディフェンスで意識していたことは何かという問いに、次のように答えた。
「「小林さんはスリーが入るので、ディナイ(※1)をして相手に少しでも気持ちよくプレイさせないようにと思っていました」
足元まで迫る、まさにお手本のような好ディフェンスで相手にプレッシャーをかけ続けた熊澤は、3Qまで小林のスリーポイントシュートを0/6に抑えた。♯4田上をはじめとする慶大のスタートが「相手の充実感がすごかった」と声をそろえて口にしたが、熊澤のディフェンスには、日大の気持ちの強さが象徴されていたように思える。
また、日大ベンチの控え選手の起用法についても注目したい。
前半。日大の司令塔兼点取り屋#9篠山が、好調を伺わせながらもベンチに下がった場面があった。なぜわざわざ好調の篠山をベンチにさげるのだろう。そう疑問に思った観客も少なくなかったはずだ。私もその一人である。しかしそれは、日大ベンチの意図があっての交代だった。篠山を早々に下げた理由。それは、「スタミナの温存」である。
「「監督からこの試合で前半一度海斗(#3石川)と交代して休ませるということを、あらかじめ言われていました」(日大#9・篠山)
連戦のなか選手にかかる身体的、精神的負担を、日大ベンチはしっかりと計算していたのだ。篠山の代わりに投入されたルーキーの♯3石川は、この日5分間のプレイタイムながら、交代後2本のスリーポイントをきっちり決めるなど“つなぎ”としての役割を果たし、篠山を休ませることに貢献した。後半までスタミナ切れすることなくコートで暴れ回った篠山は、この試合チームハイの25得点。
一方の慶大は、1Qに不調だった♯7岩下と交代という形でシックスマンの♯15家治はコートに入ることになった。日大のように計画的にベンチメンバーを投入できたわけではない。ベンチ作戦の上でも、日大が一枚上手だったと言えよう。
※1、ディナイ・・・積極的に手をかざすことで相手の視野を乱し、パスコースやシュートコースを塞ぐかたちのディフェンス。
「ボールを持っている人が自ら打開をして得点をとるというバスケットを慶應はやっていない。今度はオールコートにプラスして、自分の前の1対1の守りも攻撃もレベルアップするというのをやらなきゃいけない。あとはバックアップの育成」(佐々木ヘッドコーチ)
3年生の♯7岩下、♯11酒井(福大大濠・3年)は「4年生をサポートできなかった3年生が力不足だということを痛感した」と反省の色を見せた。慶大を支えるセンター、ポイントガード、フォワードの3人(順番に♯7岩下、♯16二ノ宮(京北)、♯11酒井)が揃う3年生は、来年のチームを引っ張る三銃士である。目標であった「インカレ3連覇」への道は閉ざされたが、来年こそは関東大学バスケットボール選手権大会、関東大学バスケットボールリーグ戦、全日大学バスケットボール選手権大会と3冠をねらってほしいところだ。その目標を達成するためには、2つの課題がある。
一つ目は、1対1の強化―特に、セットオフェンスの強化だ。
慶大バスケの御家芸といえば、しつこいチームディフェンスからの“速攻”。速攻に関しては、全国の大学の中でも右にでる者はないだろう。足を使ったオールコートのバスケット。これは、チームの根底にある理念だ。新チームになってからも、速攻は佐々木ヘッドコーチが常にチームに求めてきたことだ。速攻は完成に近づいた。そしていま、次の段階として要求されるのは、ハーフコートまでボールを運んだあとの、いわゆる「セットオフェンス」だ。スクリーン(※2)をうまく使ってセットオフェンスを展開させていた日大と比較してみても、慶大のセットオフェンスにはバリエーションが少なく、結局は時間ぎりぎりになってボールをもっている選手がシュートを「打たされる」場面が少なくない。こうなると、その日の選手のシュートタッチによってオフェンス力に“波”が生まれてしまう。セットオフェンスを強化し、攻め方にバリーションをもたせることで、より確実なシュートを選べるようになるだろう。
二つ目は、バックアップの育成。
これは、慶大にとって最大の課題といっても過言ではない。スポーツ推薦のない慶大にとって、毎年100%のリクルートが成功する保証はない。しかし、それでも選手の起用法によって長所を伸ばすことができれば、チーム力の向上は計れるはずだ。各ポジションに1人以上充実したバックアップのいる東海大、ベンチ全員の素質がずば抜けている青学大、石川や熊など、コンディションによってはスタートの選手よりも活躍できる控えを擁する日大といった面々に対して、スタート5人だけのスタミナで勝負を挑むのには、やはり限界がある。バランスのとれた選手育成ができるかどうかが、今後のカギとなってくるだろう。
1月1日から社会人から高校生までが決戦を繰り広げる第85回天皇杯・第76回皇后杯 全日本総合バスケットボール選手権大会が東京体育館、代々木体育館で行われる。慶大は1月2日が初戦である。2つの課題を乗り越え、2006年度同様、JBLに打ち勝てるかが楽しみである。
※2、スクリーン・・・オフェンスの際、ボールを持っていない選手が壁となってディフェンダーの進路を妨げる位置を占め、味方がフリーになることを助けるプレー。
文:阪本梨紗子、井熊里木
写真:阪本梨紗子
取材:阪本梨紗子、金武幸宏、井熊里木