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「女の子が変身して戦う」という斬新なコンセプトで大ヒットした『プリキュア』シリーズ。勇猛果敢に戦うプリキュアたちの姿は子供たちに夢や希望を与えてきた。その製作に携わった慶大法学部出身の鷲尾天さんにプリキュアシリーズに込められた想いや今後の展望、そして後輩である慶大生にメッセージをもらった。
【プロフィール】
鷲尾 天(わしお・たかし)
東映アニメーション株式会社
執行役員 エグゼクティブプロデューサー
『プリキュア』シリーズ初代プロデューサー。第1作『ふたりはプリキュア』(2004)~『Yes!プリキュア5GoGo!』(2008)まで務めた後、『Go!プリンセスプリキュア』(2015)からは企画として携わっている。ほかに『トリコ』『おしりたんてい』『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』などを手掛ける。
自分の足で凛々しく立つ
「女の子向けのアニメーションをやらないかと言われた時は、全く女の子向けの作品の経験がなかった。当時の女の子向けのアニメは魔法で何かを解決するか、可愛らしいペットと一緒に過ごすというような作品ばかりだった」と鷲尾さんは当時を懐かしんだ。
約18年前の当時の社会は「女の子は女の子らしく」という価値観が当たり前のように受け入れられていたという。未経験のジャンルのアニメ製作に悩み、あることを提案した。「自分が好きだった『変身してアクションする』というテイストでとりあえずチャレンジしてみようということになりました」
当時の企画書には「自分の足で凛々しく立つ」という文言が踊る。このコンセプトは『プリキュア』シリーズに共通した根幹的な言葉だ。
「この『自分の足で立つ』ということがなされているなら、『プリキュア』は変身やアクションがなくても『プリキュア』なんですよ」。誰も長期的な作品となることを予想しなかった『プリキュア』がこの瞬間に誕生した。
王子様が現れないアニメを目指して
『プリキュア』シリーズの根幹は「自立したキャラクター像」だ。そのために「王子様を出し、助けに来るまで待っていれば良いという場面はやめようと監督と話し合いました」と鷲尾さんは語る。
そしてこのコンセプトは女子だけに当てはまるものとは『プリキュア』製作陣は考えていなかった。近年話題になった、男の子のプリキュアの登場は社会を驚かせたが「誰もが自分の意思を持って物事に立ち向かわなくてはいけないし、問題を解決しなくてはいけないのは男も女も関係ないんです」と鷲尾さんは意図を語る。
この根幹を守り続けた『プリキュア』シリーズは今年で18作目。現在放映中の『トロピカル〜ジュ!プリキュア』は変身シーンにメイクが加えられていることが特徴的だが、そこに込められた意味も『プリキュア』らしい。
「人の目線を気にしてメイクするのではなく、自分のモチベーションを上げるためという意味でのメイク」として描いている。時代が変わった今も、コンセプトは脈々と受け継がれている。
親子に寄り添う『プリキュア』の表現
『プリキュア』のメインターゲット層は4~7歳の女子で、アニメ表現の中では親子で安心して楽しめるようさまざまな表現が考えられている。
例えば、プリキュアの主人公は中学生の女子の場合が多い。その年代の興味関心の的であるダイエットは、子供に悪影響を与える可能性があるために表現されていない。むしろ歴代のプリキュアは大食いキャラになっているようだ。
戦闘シーンでは頭やお腹を殴られる描写は一切なく敵の攻撃は手足でブロックする。また、敵のダメージの大きさはプリキュア自身の傷ではなく、戦闘周囲の建物の倒壊具合などで表現されているなど、さまざまな工夫がなされている。
そして鷲尾さん自身も驚愕したというのが、当時の『プリキュア』監督の西尾監督のある指示だったという。
「主人公の部屋に母親が入るシーンがあったとき監督が『母親にドアをノックさせろ』と言ったんです。『この年頃の子はいきなりドアを開けて入ってこられるのは嫌だろう』って。なんでそんなことわかるのって思いましたけどね」と鷲尾さんは笑いながら当時を振り返る。『プリキュア』は日常的な表現を描いているのだ。
子供たちが熱狂する作品を
鷲尾さんは以前から『怪談レストラン』や『ねぎぼうずのあさたろう』といった児童書をアニメーションにすることを手がけてきた。
「子ども向けのアニメは漫画原作のものが多いですが、児童書をアニメ化することの可能性をその時学びました。その経験が今に生きていると思います」
鷲尾さんの今後の展望はいたってシンプルだ。「やはり今と変わらず子供たちが喜び熱狂する作品を作っていきたい」
今、鷲尾さんが担当しているのは小学生から絶大な人気を誇る『おしりたんてい』や『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』といった作品だ。これらは韓国で日本以上のヒットを記録している。「日本国内だけでなく、アジアへの進出もあるかもしれません」。鷲尾さんの仕事の場は国内に留まらない。
人見知りを変えた大学生時代
鷲尾さんによれば、大学で学んだことの知識は社会に出たときに大いに役に立ったという。「大学で学んだことの9割が無駄でも1割役に立つなら通って損はありません。その1割がとても役に立ちます」
熱く語る鷲尾さんだが、大学生時代は学業よりもあるものに熱中していたという。「大学生の頃はツーリングに明け暮れていました。ホステルという宿に泊まって、相部屋の初対面の人と話しました」
しかし鷲尾さんは、元々は人見知りだったという。「話しかけてくれた人がいたことがきっかけでした。それまでは最初の一歩が踏み出せなかったが、旅行で鍛えられました。大学生は話さなくてもいい環境にいるからこそ、自分からアプローチして行かなくてはならない。このことを大学生の時に学びました」
まずはやってみる
塾生に対してのメッセージを問うと、答えは明快だった。
「なんでもやってみてください。やってみて損なことはひとつもない。それが一番大事です。やってみることです、とにかくチャレンジしてみること。後で同窓会になったときにいいネタになりますよ」
読者の皆さんも失敗を恐れることなく、さまざまなことに積極的に挑戦してみてはいかがだろうか。
(吉野彩夏)
【番組情報】
『トロピカル~ジュ!プリキュア』
ABCテレビ・テレビ朝日系列にて毎週日曜あさ8時30分放送中