今、「ウマ娘」が熱い――。そう、時代は「ウマ娘」なのである。
ここで一度、企画名を確認してみよう。この企画は「塾新読書倶楽部」である。この記事を読んでいる多くの方が心の中で「どうした急に」と思っているであろう。読むのをやめようと思った方、ちょっと待ってほしい。本の紹介をする前に、私によるキモい語りを聞いていただけないだろうか。
「萌え作品」? 否、侮ることなかれ
「ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)」とは株式会社Cygamesによるメディアミックス作品で、実在する競走馬が擬人化されていることが特徴だ。2021年2月にゲームがリリースされたことで人気が爆発し、現在ではアニメやゲーム、漫画などで幅広くメディア展開がなされている。
私は先日、アニメ「ウマ娘 プリティーダービー Season2」を見たのだが、見事にこの作品の虜にさせられた。このアニメの主人公は「天才」と称されたウマ娘・トウカイテイオー。ネタバレを避けるために詳細は伏せるが、怪我やライバルとの敗北といった挫折を幾度となく繰り返そうとも何度でも立ち上がる彼女(彼?) の「帝王」らしからぬ泥臭さを見せつけられ、私は不覚にも目から熱い汁を垂れ流し続けてしまった。
そして「ウマ娘」が熱いのは、私だけではないらしい。例えば、2021年4月のモバイルゲーム売上ランキングにおいて、「ウマ娘」は世界3位に躍り出た。日本語版しかリリースされていないゲームがこの位置に食い込むのは、かなり異例のことである。また、アニメ内で「名脇役」を演じたウマ娘・ナイスネイチャのバースデードネーションでは、現実世界のナイスネイチャに前年の176万円を大きく上回る3582万円の寄付が集められた。このような世間での「ウマ娘」の大躍進はまさに「うまぴょい伝説」といっても過言ではないだろう。
さらに私は「ある事実」に度肝を抜かれることになる。その事実とは、アニメもゲームも漫画も史実に即したシナリオになっている、ということだ。特にアニメは、レース結果はもちろん、レース展開から実況のセリフ、細かいエピソードまで、ほとんど忠実に再現されているほどの徹底ぶりだ。
あんなに熱い物語がノンフィックションだったとは――。そのことを知った私はいつしか「競走馬が生き抜いた姿をもっと知りたい。」そう強く思うようになっていた。そんな私が出会った本がこの『名馬を読む』シリーズである。
活字で響く名馬の生き様。夢を駆けるその姿。
「ウマ娘」に出会うまで、私にとっての競馬は「単なる賭け事」で、ましてや競走馬になんて一切興味がなかった。しかし、この『名馬を読む』、読んでみるとなかなかに面白い。競走馬たちの生き様が活字のみで綴られており、ページをめくる度に新たな名馬との出会いを楽しめる。
人々の予想をことごとく裏切り、「新聞を読む馬」と呼ばれたカブトシロー。日本からアメリカに渡り、かつて日系人収容所だった競馬場で日本馬初の海外重賞勝利を遂げ、現地の日系人社会に勇気を与えたハクチカラ。勝利より楽しむことに執着した最強の馬、ディープインパクト。私が思わずにやけてしまったり、目頭を熱くしたりした名馬とエピソードを挙げてみたが、これらはこの本で取り上げられた中のほんの一部分にすぎない。この『名馬を読む』には記事では紹介しきれないほどの名馬とエピソードが載っている。「ウマ娘」が好きな人、「ウマ娘」が好きでない人、競馬に興味がある人、競馬に興味がない人、どんな方でも構わない。ぜひとも、この『名馬を読む』シリーズを手に取っていただきたい。あなたにとっての「愛馬」がきっと見つかるはずだ。
(野中あおい)