化学物質過敏症とは、非常に微量の化学物質や薬品に対して過剰に反応する健康障害だ。大量の化学物質や薬品にさらされたり、微量であっても繰り返し、あるいは長時間さらされたりすることである時点から発症する。健康障害をきたす化学物質や薬品の種類や量、起こる症状は人によって異なる。また、安全だと言われている濃度・質量より少ない量の化学物質や薬品でも発症の可能性がある。化学物質過敏症を予防するためには、化学物質に接する機会を減らし、日ごろから換気をすることが大切だ。
不十分な認知度と医療体制
化学物質過敏症支援センター(以下、CS支援センター)の事務局長、広田しのぶさんに話を聞いた。CS支援センターは、化学物質に依存しない社会を作るための広報活動や、化学物質過敏症の患者とその家族に対する支援を行っている。
患者一人一人の症状が異なったり、一人の患者がさまざまな症状を併せ持つことがあったりする化学物質過敏症は、なかなか認知されない。検査をしても、はっきりとしたデータが出ず、時には精神病と間違われることもある。患者の中には、症状に苦しみ、自殺する人も少なくない。
「会報や報道機関の取材を通じて、多くの人に化学物質過敏症について知ってもらうきっかけを作りたい」と広田さんは話す。他にも、講演会や相談窓口では、どの化学物質がどのような症状を引き起こすかといった情報を国や企業、保護者などに提供している。化学物質過敏症の患者とその家族に対しては、症状が改善するような、生活上のアドバイスをする。ただし、CS支援センターの相談員は、医師や保健師ではない。必要があれば、専門医や他の団体を紹介する。
新型コロナウイルスの感染拡大により、アルコール消毒についての相談が圧倒的に増えた。患者たちは、日常生活のあらゆる場面でアルコール消毒をすることで、頭痛やめまい、気持ちが悪くなるなどの症状を訴えている。CS支援センターではより多くの相談に応じられるよう、専門医と協力しながら支援を続ける。
日本では、化学物質過敏症の認知度も医療体制も不十分なままだ。2009年、日本で化学物質過敏症が病気として認定された。国の認定を受けてから少しずつ認知度は高まりつつあるが、まだ多くの人がこの病気を知らない。また、化学物質過敏症について説明できる医師も全国で限られている。
別の病気と診断されたり、原因不明の病気として放置されたりしている、潜在患者は多く存在すると考えられている。
支援センターには幅広い分野の情報と運営するための資金が必要だ。広田さんは「公的な機関が、各地に化学物質過敏症の患者に対する支援センターを開設してほしい。そして、化学物質過敏症を理解してくれる医師や看護師など医療関係者を増やしてほしい」と語る。
知識を持つことが大切
化学物質過敏症は誰でも発症しうる病気だ。化学物質過敏症ではない人たちに対し「知識を身につけ、予防してほしい。化学物質過敏症の患者に合わせ、生活を変えていくことは、私たち自身の健康にとっても良い。化学物質過敏症への理解を深め、何が有害なものなのかを判断できる知識を持つことが大切だ」と、広田さんは呼びかける。
化学物質過敏症の患者はほとんどの人が気にならない臭いや、臭いがないものにも反応する。一般に良い香りとされる柔軟剤やアロマ、香水も、彼らにとっては社会生活が送れなくなるほどのつらい臭いとなる。一方で、症状の原因となるものを回避できれば、症状は治まり、普通の生活を送れる。香りの強さや、使用する時と場合を選ぶ「香りのエチケット」を守りたい。
商品を購入する際には便利さや価格だけではなく、使われている薬品が体に及ぼす影響についても考えてみてはいかがだろうか。
(篠原佳鈴)
CS支援センターの相談専用電話番号は045‐663‐8545(祝日除く水曜日・金曜日、10時~12時30分/ 13時30分~16時)。詳細はCS支援センター、ホームページまで。