三田祭最終日となる11月24日、13時半から西校舎1階519教室にて作家で元外交官である佐藤優氏(同志社大学神学部客員教授、静岡文化芸術大学招聘客員教授)の講演会(主催:学生団体Wisdom)が行われた。ロシア外交の専門家として名高い佐藤氏の講演を聞こうと高校生からシニア層まで幅広い世代の人が足を運んだ中、佐藤氏は「令和時代の日本外交」をテーマに1時間で講義、残り30分で質疑応答を行った。
今回の講演は日韓関係を軸として、日本を取り巻く東アジア情勢を主題に進められた。はじめに、11月22日に韓国がGSOMIAの破棄を延長する決定を発表したことに触れ、今回の一連の出来事について日本、韓国、アメリカの3カ国にまたがる背景から解説した。「短期的には日本外交の勝利だが、一連の決定にはトランプ政権の圧力が背景にある。大々的なリストラ政策を行っているアメリカは今、中東情勢に集中しなければならず、東アジア情勢に目を向ける余裕がない。そのため日韓間の揉め事は極力避けたかったのでは」と分析する。加えて佐藤氏は、韓国と台湾で日本への国民感情が大きく異なるのは、植民地時代はもちろんのこと、戦後日本の両国への対応が大きく異なったことが影響していると解説した。
外交はニュートン力学の世界であり、力と力の均衡性の下で成り立っていると述べる佐藤氏。今回、特に教育のもつ影響力の大きさを強調した。「地理的要因が政治に与える影響は大きい。中国やロシアなどの大陸国家は軍事力を背景に領土拡大するが、必ず頓挫する。広すぎる国土を維持するために多額の費用がかかり、破綻に追い込まれるときがくるのである。対して日本やアメリカ、イギリスなどの海洋国家は経済力を強化して積極的に貿易を行うことで、国力を強化するため、貿易のネットワークが強い。現在、この貿易ネットワークは海洋空間をサイバー空間に置き換えることで情報ネットワークに応用されている。ここで情報のネットワークを制する際に大事になるのは教育である。日本のライバルである韓国は早い段階から教育には尽力しており、近いうちにGDPが日本を超えるとも言われている。日本がここ数年教育に力を入れているのはそのためである」と述べた。
教育といえども、具体的にどこがポイントだろうか。大学生へのメッセージとして佐藤氏は「大学入試が今問題となっているが、大学に入る前より入った後の方が大切」とした上で、英語力の大切さを強調した。「韓国は就活時にTOEIC900点が最低ラインとなっている。対して日本人の英語力は大学入学時がピークであり、歳を重ねるにつれどんどん落ち、最終的には中学2年生レベルまで落ちる。そこで世界的にみて中級レベルとされる英検準1級を大学生のうちにぜひ目指して欲しい。英語はディクテーションを行うことが一番有効で、シャワーを浴びるように英語を聞くのではなく、一日30分でいいので、テキストを見ずに英語を聞き取って、それを書き起こすという作業を繰り返して欲しい。」
また、「文系だから数学はいらない」ということはないという。「就活で使われることの多いSPI(適性検査試験)などでは4割が中学三年生レベルの数学、国家公務員総合職試験でも高校一年生レベルの数学が出題されることを考えると、数学は将来必要になる場面が増えてくる。数学の実力に不安のある人は恥を忍んで中学段階まで戻ってやってほしい」とエールを送った。
最後に佐藤氏は慶大生へのメッセージとして「緊張感が増す東アジア外交だが、生命を尊重し人間主義に立つという考え方を東アジアで広めることが大切。慶大生のような優秀な学生には優秀なりの使命がある。それは将来どの分野に進むにせよ、その分野においてどのように平和を実現し、人々の幸福を追求できるか考えることである」と語り、講義を締めくくった。
講演が全て終わるや否や地響きのような大きな拍手が沸き起こった。講演を聞いた聴衆は1時間半という時間があっという間に終わったように感じられたかもしれない。
(水口侑)