本連載の第一回では、「発達障害のある学生が感じる困難」にフォーカスを当てた。今回はさらに範囲を広げ、障害のある学生に対する支援、またそのような学生に対し塾生がとるべき心構えについて取り上げる。
一人一人にあった配慮
2018年4月、三田キャンパス東館3階に「協生環境推進室」が設置された。この部署は大学だけでなく慶應義塾の一貫教育校や塾の職員も対象として「ワーク・ライフ・バランス」と「ダイバーシティ」、そして「バリアフリー」の実現に取り組んでいる。
「協生環境推進室の土台には福澤先生の理念があります」と、室長を務める塾常任理事の岩波敦子教授(理工学部)は話す。慶應義塾を創立した福澤諭吉は、自他の権利や幸福を尊重することこそが「社会共存の道」だと述べた。協生環境推進室はその「協生」の理念のもと、多様な価値観が尊重されるキャンパスを実現すべく啓発活動やサポートを行う。
協生環境推進室は、学生部などと連携して配慮を必要とする学生へのサポートを実施している。
聴覚障害のある学生には筆談ボードや音声を文字化できるアプリ「UDトーク」を用いて情報保障を行っている。また、視覚障害のある学生(受験生)には入試や定期試験で拡大読書器を貸しだしており、学生のニーズに合わせた支援体制が整っている。
こうした配慮にあたり、学生一人一人との話し合いが重要だという。必要とする配慮は学生によって違い、特に発達障害のある学生の場合、そもそも自分のニーズに気づいていないケースもある。「『合理的配慮』をするにあたり、一人一人にとって何が「合理的」なのか建設的対話を通して明確にする必要があります」
「協生社会」のために
ユニバーサルデザイン論を専門とし、協生環境推進室のバリアフリー推進事業委員会で委員長を務める中野泰志教授(経済学部)は「障害のある学生への配慮はあくまで、他の学生と同じように能力を発揮できる状態を作るためのもの。ずるいとは決して思わないでほしいですし、配慮自体もまだ十分ではないことを認識してもらいたいです」と話す。例えば、障害のある学生の中には定期試験で1・5倍の時間の延長を受けている人がいるが、それでは十分ではないことが研究で示されている。
また、発達障害や精神障害、内部障害など、見た目では分かりにくい障害のある学生もいる。そのような学生の存在に気づき、普段から配慮する必要があると中野教授は話した。「障害があることを周囲に言っていない人もいるかもしれません。障害を隠さなくて済む社会を作っていく必要があります」
障害を持つ学生に対するさりげない配慮の重要性を強調する中野教授。例えば、会話中において発言の最初に「○○さん」と呼びかけることで、視覚障害がある人でも誰に対して話が振られているか分かるようになる。また、聴覚障害や発達障害がある人のために話した内容を、後程メールで送ることも、配慮の例として挙げられる。
岩波教授は「一方的な支援ではなく、互いに助け合いながら一緒に成長していくのがいいですね。これは慶應が大切にしてきた『半学半教』の精神にも通じます」と話す。
障害の有無にかかわらず誰もが本来の能力を発揮できるキャンパスを作るヒントは、慶應義塾が長く受け継いできた精神にあるといえるだろう。
(髙木瞳)