功績認められ特選塾員に

 

戦前からの歴史をもつ食堂、山食。昭和12年の創業以来、塾生に親しまれてきた現存する義塾最古の食堂である。今年7月、山食3代目社長の谷村忠雄さんが特選塾員に推薦された。

特選塾員とは、義塾の卒業生でなくとも、特定の要件を満たし、特別に塾員と認められた人のこと。教職員や中退者が多いが、義塾に対し功績があったとして、今回、教職員6人から谷村さんは推薦された。

推薦を受け、谷村さんは「今までも塾員のつもりだった」と笑う。山食で働き始めて54年。その間、愛塾精神を持ち続けてきた。「正式に塾員と認められてうれしい。推薦して下さった先生方に感謝しています」

山食で谷村さんが働き始めたのは15歳のとき。「『慶應の学生食堂で調理師見習いを募集しているが、だれか行く人はいませんか』と先生が呼びかけた。一番先に手を挙げたのが僕でした」。もともと料理が好きで、母からも「忠雄は料理人になってもいいな」と言われていた。山食で働くことに迷いはなかったという。

家計に余裕がなく、進学を断念したものの、勉強は嫌いではなかった。就職後、こっそり通信教育で学び始めた。朝6時から夜の9時まで住み込みで働いて、勉強はそれから。消灯後も夜中に街灯の明かりで勉強し、何とか高校の課程を修了した。「やはり勉強したい、という強い思いがあったからね」。その後、本格的に調理師の勉強を始め、免許を手に入れた。

大学の夏休み中は体育会の山中湖山荘へ。45年以上、毎年のように合宿の食事を担当し続けた。「合宿は3食だから休む暇がない。しかも、ひとつの部が帰ったと思ったら次の部がやってくる。でも、楽しかったね」。特に自分と同年代の体育会OBとは合宿を通して親交を深め、今でも付き合いがあるという。「毎年2カ月間大変だったけど、当時の学生さんとの交流が今とても生きていると思う。親しくなった体育会OBで、山食に寄って声をかけてくれるような人が何十人もいます」




塾生には「負けない人生を歩んでほしい」と話す。「人生何があるかわからないが、自分自身に負けないでほしい。福澤先生をはじめ、未来を先導してきた先輩たちに続いて社会で活躍してもらいたい」。そのためには「心身の健康が大切」と強調する。「健康であって初めて能力が発揮できるからね」。普段から栄養バランスを考え、食事を提供している谷村さんらしい。

山食には塾生はもちろん、教員や職員も多く訪れる。中には、「昼食は毎日山食」と決めている人もいるという。長年にわたり山食が親しまれ続ける理由を谷村さんは「お客様ひとりひとりを家族だと思って誠意をもって接しているから」と話す。「これからも、山食はお客様にとって第2の家庭のような憩いの場であり続けたい」。山食といえばカレーが有名だが、創業時から材料、作り方ともに変えていない。「家庭の味は変えてはならない」という思いからだという。

SFCなど他キャンパスに山食の支店を出してほしい、という依頼も多いが全て断っている。「あまり手を広げて目の届かないところで何かあったら大変。山食は三田キャンパスだけでいい」。義塾を愛する谷村さんのもと、山食は三田の山の上で変わらず塾生、塾員を見守り続ける。

(西原舞)