オリンピック競技の中でも絶えず注目の的である男子体操界。しなやかで確実な技を披露してきたベテラン世代に引退の影が迫り、若手を伸ばそうと苦悩するその現場で、2020年東京五輪はどのように映っているのか。
2004年アテネ五輪体操団体金メダリストであり、現在は男子体操競技強化本部長を務める、水鳥寿思さんに話を聞いた。
水鳥さんは、主に男子代表選手の指導や、代表選考ルールの取り決めなど、体操に関する指導に携わっている。その傍らで慶大総合政策学部の専任講師を務め、体育の授業を受け持つ。
SFC赴任のきっかけ
さまざまな分野で頑張ろうとする学生への指導によって、自身の金メダル獲得経験がより価値あるものになると考えたと、水鳥さんは話す。「自分自身の視野も広がるかな、という思いもありました。実際、しっかりと自分の意見を持っている学生に驚かされる場面もあります」
選手から指導者へ
「選手が主体性を持ってやるべきだ」という自身の考えは、選手時代から変わらない。そのうえで、指導者の立場から、選手それぞれに合わせた方法を見つけて指導することが難しいという。
選手に対しては「人生を大きく左右する金メダル獲得という目標に向けて、あと1年という時間が残っている。その中で自分がすべきと思うことを、一生後悔しないように練習をしてほしい」と語る。
2020東京五輪に向け、チームに求めること
日本体操界は現在谷間の時期にあると水鳥さんは考えている。東京五輪を来年に控える中、選手にはどのようなプレッシャーがあるのか。それに対し指導者としてどんなことができるのか。初めての経験で見当がつかないという。
「できることとしては、今年、本番での演技構成をそれぞれの目標に達した状態にする。そして来年はより精度を高めていき、自信を持った状態を作りたい」
団体戦で大切なこと
団体戦において大切なことは何か。「チームの中での役割を全うするために必死に取り組む姿を、一人一人がみんなに見せられるか。そこで存在意義を果たせるかどうかが大切」と水鳥さんは話す。加えて、テクニックの向上も互いに図る必要があるという。
そのためには、チーム内のコミュニケーションも重要だという。「技のやり方を、将来チームメイトにもなりうるライバルに教えること。団体の中で自分の役割を見出してそれに注力すること。この2点が大切だと思う」
東京五輪へ期待すること
「自分たちがやっているスポーツの価値を認めてもらいたいという気持ちが強い」と水鳥さんは話す。「五輪を通して、日本人のマインドのどこかが変わるきっかけになればうれしい」
現地開催というプレッシャーもあるが、それを強みに変えた技を見せられるのか。そして、五輪を端緒として、いかにスポーツの波が市民生活に浸透するのか。今後の男子体操界に注目したい。
(河野優梨花)