「もう紙の新聞は読まれない」と叫ばれて久しい。紙からデジタルへの絶え間ない変化の中で、新聞社はどのような戦略を策定しているのか。約150年前から新聞社として古くから日本のメディア業界を支えてきた、日本経済新聞社(日経新聞)の編集局総務、山崎浩志さんに話を聞いた。
令和時代の「新聞の価値」
デジタル化が進む前、それぞれの新聞社において「重要な情報は何か」という判断基準は共通のものであった。しかし、デジタル化によって、誰でも情報を世の中に発信できる時代が訪れた。「読み手に対して横一列で情報を発信してきた新聞の価値が、少し揺らいできたといえます」
メディアが次々と登場するごとに、読み手の興味は細分化される。そのような時代だからこそ、新聞の役割は「伝えなければいけないことを伝える」ことだと山崎さんは話す。「受けの良さそうな記事だけを安易に発信することは目指しません。すべての人にとってニュースバリューが高い記事を大切にしたいです」
具体的には、自社の強みである記者の取材力やプロとしての知見、表現力をフルに活用して、ニュースをわかりやすく伝えようとしている。自分の読みたい記事だけ読むことは楽だが、それでも報道記事をぜひ多くの人に読んでほしいというのが、山崎さんの思いだという。
メディアとしての新戦略
最も、デジタル化に対抗していくためには、価値の継承にとどまらないような新たな施策に取り組む必要がある。果たして日経新聞は、具体的にどのような取り組みをおこなっているのか。
その前提として、デジタル化が私たちの思考方法を変えつつあることを理解する必要がある。現代においては情報の伝え方も文字に限定されず、聴覚情報や視覚的情報で入手することもある。また、情報を得るデバイスも日々進化している。
こうした変化に対応するため、日経新聞では毎月、情報伝達に関する新しいアイデアを議論し、実現しているという。視覚的・聴覚的な工夫を織り込んだサービスや、スマホでの利用者を想定したサービスなどだ。
受け手としての意識
近年は情報が氾濫しているため、自分が信頼する座標軸を一本持つことが大事であると山崎さんは話す。フェイクニュースも多くあふれている中、正しいものを見抜く目を養う必要性が高まっているだろう。
このような現状の中で、山崎さんが大切にしているのが「読者との信頼関係」だという。「新聞が役に立たない、間違っているなどと思われたくはないです。いかにして人々に納得してもらい、長期的な信頼関係を築くかが課題だと考えています」
(湯宇都)