廣瀬さん×ラグビー みんなで良いチームを作って勝てたら
―慶應時代の思い出は?
大学時代、僕が主将の時はあまり勝てなかったんですね。だからどちらかというと、どうやったらチームがもっとよくなるのかと悩みながらラグビーをしていたというのが思い出としてあります。あまり結果が出ないで終わったというのが印象的ですね。
あとは全然違う価値観を持っているさまざまな人たちが、一緒にラグビーというスポーツを通して一つになっていくことが貴重な体験だったと思います。
―印象に残っている試合は?
1番印象深いのは、4年生の一番最後の関東学院大との対戦ですね。引退試合ということもありますが、関東学院大に対して「何でこのチームってこんなにまとまっているんだろう」とか「楽しそうやな」とか、そういう風に感じていました。今まで「もう勝てないな」と試合中に感じることはなかったのですが、「今日は無理やな」と初めて試合中に思いました。それはとても印象に残っています。
―「生まれながらの主将」という評価を、ご自身ではどのように感じている?
僕自身は、あまりそう思っていません。僕の母に言わせても「あんたが主将やると思わなかった」と言われましたし、社会人になって東芝の主将を任されたときも、周りには反対した人もいるくらいです。ただずっと成長していたいとか、周りの事を信じるとか、前向きでいるとかそういうところは持っていたのかなとは思います。
―プロに進むことを決めたのはなぜ?
今しかできない事をやりたいと思ったのが一番です。ラグビーは50歳までできないけど、仕事は50歳になってもできるので、「今しかない」というところで決断しました。
―学生時代とプロで大きく違うところは?
社会人は学生に比べて、オンとオフの切り替えを大事にしていると思います。やる時の集中力はすごく高くて、それ以外の時は割とリラックスしています。自分で勉強する人もいますし、みんなでお酒を飲みに行ったりご飯食べに行ったりする人もいます。慶應の人はすごく真面目ですけど、切り替えの部分で言うと真面目すぎるというか、ずっと真面目な感じなので、もうちょっと上手に切り替えられたらいいなとは思っていました。
―引退を決めた理由は?
僕としては、2015年のW杯というのが一番のターゲットでした。そこで3勝1敗になって、日本の中でラグビーというスポーツを広く知ってもらえるようになり、W杯が終わった後もトップリーグの試合にお客さんがたくさん来てくださいました。その光景を見て「自分がやりたいことができたな」と思ったのがきっかけで引退を決意しました。
―セカンドキャリアはどう考えている?
セカンドキャリアとしては、ラグビーだけにとらわれなくてもいいと思っています。「みんなで頑張って良い思いをしよう」というところにすごく興味があるので、それは別にラグビーではなくても、例えばサッカーのチームに入ってもいいですしね。サッカーチームに入って、みんなでチームの作り方みたいなのを頑張って勉強して、良いチームを作って勝つことができたら、それはそれで嬉しいと思います。
廣瀬さん×W杯 4年に一度の思いを感じてほしい
―前回大会(2015)では直前で主将を外されたが、当時の心境はどうだったのか?
直前と言っても、外されたのはW杯開催の2年前なんですね。2年間主将をやって2年間は主将ではありませんでした。だからあまり直前という感覚はなかったです。ただ、外された瞬間は「辛いな」という思いもありました。一方で日本代表の主将ってプレッシャーとか色んなものを背負っているので、外されてちょっと安堵感というか、「ああもうなくなったんや」という思いもありましたね。でも一番大きいのは辛かった、悲しかったという気持ちですね。
―そこから気持ちをどのように切り替えたのか?
チームの仲間がすごく好きだったので、この仲間と一緒にやりたいという気持ちと家族の支えで、もう1回頑張れるようになりました。「辛い時こそ頑張ったら成長できる」という思いもあったので、もう1回頑張ろうと思いました。もちろん、そんな簡単には切り替えられなかったんですけど、時間を経てうまく切り替えができたと思います。
―前回大会の日本の大躍進を代表の中からどのように見ていたか?
今までW杯では勝ったことがなかったので、どのくらい準備したら勝てるかというのはわからなかったんですけど、それでもすごくいい準備ができていました。
「ジャパンウェイ」という言葉を掲げて、日本のチームならではの道を突き進んだっていうのが大躍進の要因の一つですね。あとは、天候の確認やスタジアムの下見など、自分たちができることをしっかりやったのが良かったと思います。
―南アフリカから大金星をあげた瞬間は?
なんかあの感情ってよくわからないですね。「ほんまに勝ってもうたんや」という感じです。「こんなことあんねんや」みたいな。最初はあまり現実に見ているものとは思えなくて、「夢じゃないの?」という感覚がすごくありました。とにかく「こんなことが世の中起きんねんな」みたいなそんな感じでしたね。
―前回大会から日本はどのように成長してきているのか?
日本はもともとW杯で勝てていなかったのですが、今のチームは「勝つ」ということを知っています。「自分たちはできる」という意識に変わって、対等に相手を見ることができるようになったのは大きな変化だと思います。
また、選手自身が考えてリードしていくような主体性のあるチームになりつつあるのかなとも思います。そこはすごく楽しみですね。
―日本代表の予想順位は?
希望としてはベスト8までいってくれれば嬉しいです。でも、予選プールも結構強い相手がいますし、順当に行ったら予選敗退になるのかもしれないですね。世界ランキングでもアイルランドが2位、スコットランドが7位で日本が11位なので。それをどこまでホームアドバンテージを使いながら差を縮められるかが勝負ですね。
―日本大会の見どころは?
選手たちは、W杯のために4年間思いを込めて準備しています。そのパフォーマンスの場なので、対戦相手に関係なくすごく見る価値があると思います。ぜひ4年に一度の思いを感じてほしいです。
それぞれの国によって色があります。そんなところも楽しめるポイントですね。顔も人種も考え方も異なるさまざまなチームから、自分の感性に合うチームを見つけると面白いと思います。
―自国開催への思いは?
アジアで初めて開催されるラグビーW杯なので、日本だけではなくアジアの人にもラグビーの良さが伝わるような大会になってくれると嬉しいです。また、W杯で終わるのではなく、そこからラグビーの価値がどう広がるかが大事だと思っています。そこにつながることをやっていきたいです。
―ラグビーの今後について
ラグビーは、さまざまな国籍の人たちが集まって一つの目標に向かってやっているスポーツです。そこはまさに、社会がこれから求めていくことに近いと思います。また、ラグビーはポジションそれぞれに役割があって、みんなが活躍した時に良い結果が出ます。これも社会に必要とされていることです。そういった意味で、ラグビーの競技的な価値は高いと思うので、これからもっと認められていってほしいスポーツです。
―慶應の学生へ一言。
小さくまとまらないで、もっと大きく遊んで、学んだ方がいいのかなと思いますね。今すごく就職活動とかみんな頑張っていますけど、そうではなくて、もっと自分を磨いたら勝手に就職もできると思います。どこかに就職するってそんなに価値のあることなのかなと今すごく感じています。これからは、仕事は自分で作っていける時代だと思うんですよね。だからこそもっと大胆に、自分の好きなことを楽しくやっていってほしいです。
(聞き手=鈴木里実)
廣瀬俊朗(ひろせ・としあき)
東芝ブレイブルーパス・バックスコーチ。ラグビーW杯アンバサダー。元日本代表主将。1981年大阪府出身(37歳)。慶大理工学部を卒業。慶大蹴球部時代は主将も務める。