自宅にいながら眼鏡型デバイスをかけると、目の前にオフィスが広がる――そのような働き方が近い将来実現するかもしれない。
情報通信技術(ICT)を駆使し、どこでも仕事をすることが可能な働き方を「テレワーク」という。具体的には、自宅で勤務する「在宅勤務」、パソコンなどを外に持ち歩いて仕事をする「モバイルワーク」、勤務先以外のオフィススペースで仕事をする「サテライトオフィス勤務」などがある。
テレワークは働き方改革の一環で政府が推奨している。慶大総合政策学部の國領二郎教授は、少子高齢化による労働力不足や、多様化する社会のニーズに応える動きが普及の追い風となっていると指摘する。
日本の生産年齢人口は、2017年の7596万人から2040年には5978万人と大きく減少することが推計されている。一方で、女性の第一子出産後の就業継続率は53.1%にとどまっている。「綺麗事の男女雇用参画ではなく、働いてもらわないと世の中が回らなくなるほど切羽詰まっている」
しかしテレワークに対する抵抗はいまだに大きい。一番の問題はコミュニケーションについてだ。人間はコミュニケーションを取る際、言葉だけではなく視線や表情なども重視する。非言語情報が、既存のテレビ会議などでは大きく欠落するのだ。
そのようなハードルを、技術を駆使して越えようとする動きもある。株式会社ピスケスは、3DカメラとAR(拡張現実)グラスを用いて、対面に近いコミュニケーションが取れるサービス「ピスケス」を開発中だ。3Dカメラで顔を立体的に送信することで、ARグラスであたかも近くに社員がいるかのような感覚を得ることができる。
「ピスケス」の大きな特徴は、会議の代替手段に留まらず、会議以外でも勤務中は常時グラスを着用することを想定していることだ。勤務中に隣の社員に気楽に相談することができる。「隣にいるという感覚が重要」だとCEOの大熊一慶さんは語る。
アメリカではテレワークがいち早く普及していたが、近年取りやめる動きが出ている。質の良いアイデアは仕事以外でコミュニケーションを取ることで生まれるという考えが大きな理由だ。そこでピスケスでは、仕事の場とは別にカフェテリアのような空間をオンライン上で作ることを計画している。
さらにテレワークで発言や表情、声色などの情報で社員の内省的なデータを蓄積し、人事面で活用することも可能だという。
様々な可能性に満ちあふれるテレワーク。國領教授は、「今までのやり方を置き換えようと考えるのではなく、新しいものを創ろうと思ったときにテレワークならではの魅力が生まれる」と語る。テレワークは、今後の働き方をがらりと変える可能性を秘めている。
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少子高齢化が進み生産年齢人口が減少する日本。新興国が勢いを増すなか、日本が成長を維持するためには、「働き方」を抜本的に変えることが不可欠だ。数年後に就職する我々塾生は、ポスト平成の新しい働き方に向き合わなければならない。
(山本啓太)