近年、ダンスがより身近になっている。YouTubeには無数のダンス動画がアップロードされ、私たちはいつでもそれにアクセスできることができる。この流れの中で、常に世間に注目され、感動を呼ぶ振付師がいる。辻?本知彦さんだ。辻?本さんは、米津玄師さんがダンスを初披露し話題となった『LOSER』や、土屋太鳳さんが抜群の表現力を披露した豪州歌手シーアによる『Alive』の日本版ミュージックビデオの振り付けを担当した。
世界的人気を誇るシーアの振り付けは、自分が振り付けをすることによる批判を恐れ、プレッシャーが大きかったという。しかし、膨大な時間を掛けて曲と向き合うことで、同歌手を好きになり、誰よりもまず歌手本人が喜んでもらうことを一番に考えるようになった。それから、辻?本さんにとって振り付けは、歌手に捧げる「プレゼント」となったという。「真剣に向き合って振り付けを行えば、たとえ批判されても恥じることはない」
辻?本さんの振り付け方は独特だ。目をつぶって一日5~7時間曲を聴き続け、思い浮かぶ振りを何パターンもアシスタントに伝える。そのうち、何度聴いても同じ振りが浮かぶ箇所をその振り付けに決定する。この地道な作業の繰り返しによって、唯一無二の心ひきつけるダンスが生まれるのだ。
辻?本さんは21歳の時に渡米し、タップ以外のほぼ全てのダンスに触れたという。そして、バックダンサー、ダンスカンパニーを経て、フリーで仕事をするようになり、後にシルク・ドゥ・ソレイユで日本人男性初のダンサーとしても活躍をみせた。舞台上で演技する際は、ダンスを習得していたとき以上に練習し、プロである意識を決して忘れなかった。
このように決して妥協せず、多様なダンスにいくつかの立場から触れた辻?本さんは、ダンスに触れて感動するときを、「人間の躍動を感じる瞬間」であるとし、こう表現した。「人生をこの瞬間に賭けているという真剣さに、人は感動するのではないだろうか。これは、スポーツでもどんな仕事でも同じであり、人それぞれ輝き方が違う。自分はそれがダンスなだけ」
ダンサー・振付師として幾重にも輝いている辻?本さん、この輝きはダンスとひたすら向き合う姿勢から生まれている。全身全霊を賭けて表現する辻?本さんのダンスは、言葉にできない複雑な感情と感動を伝えるのだ。
(仮屋利彩)