ミステリー小説のサブジャンルの一つに「日常の謎」というものがある。ミステリー小説においては殺人が起き、探偵なり刑事なりがその犯人やトリックを解き明かしていくタイプのものが多い。それに対して、このジャンルでは殺人は起こらず、日常のささいな事件を題材とする。
今回紹介する米澤穂信著『いまさら翼といわれても』も日常の謎を扱ったものだ。〈古典部〉シリーズの最新作である第6作目に当たる。このシリーズは第1作『氷菓』で主人公の高校生、折木奉太郎がふとしたきっかけから「古典部」に入部することになり、ヒロインの千反田えるに出会うところから始まる。そして友人の福部里志や伊原摩耶花も加わり、学校生活を過ごす中で出くわす謎を解いていく。青春ミステリーではあるが、爽快さや、きらきらするような恋愛模様が描かれることはない。むしろ謎が解明される過程で登場人物の抱える過去や悩みなどが明かされ、ほろ苦い後味を残すことが多い。
しかし、それこそが本シリーズの魅力の一つでもある。主人公たちの関係が物語の進行とともに徐々に変化していくのも見所だ。これまでにアニメ化と実写映画化もされており、幅広い人気を得ている。
本書は六つの短編からなる。主人公たちの過去などに焦点が当たり、それぞれの抱えるものが明らかになっていく。生徒会選挙での不正、奉太郎が中学の卒業制作に隠した秘密、伊原と漫画研究会の確執、千反田が合唱祭の直前に行方不明になった訳とは――。どれも余韻を残す外せない作品であり、必読書と言えるだろう。
(根本大輝)