2008年1月、全国高校サッカー選手権の決勝が東京国立競技場で行われた。そのピッチ上、静岡県立藤枝東高校で10番を背負う一人の男がいた。河井陽介。高校3年生として過ごしたあの1年はかけがえのない時間だった。今、河井はそう振り返る。
「名門」でサッカーをする環境は、華やかさの一方で厳しさもある。藤枝東高校サッカー部の全国出場、全国制覇には誰しもが期待を寄せる。街を歩けば他人に声をかけられたこともあった。かかるプレッシャーは決して軽くはなかった。そんな中、河井は常に自分にある言葉を言いきかせた。「隙を見せるな」。監督に言われた言葉で部の教訓となっていた。
自分たちは全国へ行くと決めた。だからどんな場でも隙は見せない。一瞬の隙もそれが夢を邪魔することになる。目指すものが大きい以上、人に見られて当たり前。だから人の目を気にしないわけにはいかない。だったら磨いた自分を見せればいい。河井はそうやって環境を力に変えた。目標への覚悟が自覚を生んだ。そして行動のすべてをサッカーの上達にささげた。
サッカーをする。それはとても単純なこと。しかし河井は言う。「そうやってサッカーをしている人が必ず上へ行ける」。そして高校を卒業するとき、河井はプロになると心に決めた。今も目指すものは変わらない。
関東大学サッカーリーグ。前期ここまでで2位と好位置につけている慶大ソッカー部。好調なチームの前線で河井はチャンスを生みだし続ける。    (有賀真吾)

〈河井陽介〉
法学部政治学科2年、静岡県立藤枝東高校卒。昨年、2部リーグベストイレブン、新人賞を獲得。