1804年――ナポレオンがフランス皇帝として即位した年だ。三菱一号館美術館(東京都千代田区)では「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界」と題して、ナポレオン帝政時代のフランス皇室と密接な関わりを持つハイジュエリーブランド、ショーメの伝統と歴史を紹介する展覧会が開催中だ。グランサンク(※注)の一つであるショーメは、現代ではティアラやハチの巣を模したエンゲージリングなどが有名だ。

1780年に創業してから現代に至るまで、約240年の歴史と伝統を持つショーメだが、その作品群は大きな二つの特徴を持つ。一つは自然主義的なモチーフが多く用いられていること、そしてもう一つは権力の象徴としての側面を持つことだ。

 自然主義的な感性

フランソワ=ルニョー・ニト《麦の穂のティアラ》1810-1811年頃
ショーメ・コレクション、パリ © Chaumet / Guido Mocafico

例えば、上にあげた作品は、ナポレオンの最初の妻のジョゼフィーヌが好んだ麦の穂をモチーフとしたティアラである。写真を見てまず最初に目に入るのは麦の穂のモチーフだろう。流れるような動きが風に麦の穂が揺れる様子を表している。このように、葉や花、虫といった自然のモチーフを多用し、ジュエリーで自然主義的な感性を表現するのがショーメの作風だ。

 権力の象徴としてのジュエリー

ナポレオンが活躍した18世紀においてティアラは身に着ける者の権威と財産を表すアイテムの1つとして、上流階級の人々にとって欠かせないものだった。ゆえに、皇室御用達のジュエラーであったショーメは、数多くのティアラを皇室に提供した。そうした皇室との関わりに伴い、ショーメの作品と「所持者の権力を誇示する」というジュエリーが持つ側面は切っても切り離せないものとなったのである。

ニッケルシルバーで作られたティアラのレプリカ。約200点ほどあり、デザインの豊富さを表している

ジュエリーとその演出

今回の展覧会は丸の内の三菱一号館美術館で開催されている。三菱一号館美術館は、明治時代にイギリス人建築家によって建てられたオフィスを改築したものであるため、展示室は美術館のそれというよりは小部屋のような作りになっている。「日本でのショーメ展は、この三菱一号館美術館の個性を生かして、ジュエリーを歴史に影響を与えた1つの「アート」として、そしてより身近なものに感じられるよう演出した」と展覧会の監修者であるアンリ・ロワレット氏は語る。三菱一号館美術館の間取り、さらには照明を駆使してジュエリーそのものの魅力や、その芸術的価値を文脈づける試みを行ったという。

このように、展覧会の主役である作品はもちろん、美術館自体の内装、そして展示方法の工夫など様々な見どころがある。この機会にぜひ、ジュエリーが織りなすきらびやかな世界を覗いてみてはどうだろうか。

(福永恵理佳)

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※注:グランサンク

パリのヴァンドーム広場を拠点とする店の中でも、高級宝飾協会が認めた5大高級ジュエラーのこと。ショーメの他にも、メレリオ・ディ・メレーやモーブッサン、ブシュロン、ヴァン クリーフ&アーペルが含まれる。

ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界 1780年パリに始まるエスプリ

2018年6月28日(木)~9月17日(月・祝)
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区)
時間:10時~18時(但し、9月10日、9月17日と、トークフリーデーの8月27日は開館)
休室日:月曜日(但し、9月10日、9月17日と、トークフリーデーの8月27日は開館)
料金:一般1700円 高校生・大学生1000円 小中学生500円(※第2水曜日17時以降は当日一般券女性のみ1000円)