開催中のサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会。熱気に満ちあふれたプレーをするのは選ばれた32か国の選手達だ。私たちは実際に現地に出向かずにも彼らのそのプレーをテレビ、スマートフォンの中継映像を通して目にすることができる。

中継には実況者という存在が付き物である。年間約200試合のサッカー中継を担当し、フリーアナウンサーとして活躍する下田恒幸さんはその道のプロフェッショナルの一人だ。刻一刻と変わる戦況を伝えるアナウンサーは、この大会にどんなまなざしを向けているのだろうか。アナウンサーの心得から今大会の楽しみ方まで、話を聞いた。

慶大を卒業し、アナウンサーへ

下田さんは慶大経済学部卒の50歳。大学時代は三田祭実行委員会に所属していたこともあった。一方で、実況の仕事への憧れは小学生の頃から持ち続けており、大学時代にはアナウンススクールにも通っていた。

仙台放送への入社からキャリアを始めた下田さん。現在はフリーに転向し、ヨーロッパサッカーからJリーグまで、スポーツメディアでの実況を中心に活躍している。

「目の前で起こっていることを伝えることが第一」 実況の頭の中は

試合の実況では、目の前の動きを言語化して伝えることと同時に、選手一人一人のエピソードや会場の空気感など、試合の背景にあることも伝えることが求められる。だが、気をつけなければならないのは、「ネタ」を出している間に決定的なシーンを逃してしまうことだと下田さんは考えている。「試合で起こっていることを伝えるのが『実況』なので、逃したらそれは実況ではない」

セットプレーが外れた後のゴールキックまでの間など、ネタを挟んでもプレーと被らないタイミングを的確に見つける。試合にのめりこめた上で得する情報を聴ける中継が下田さんの理想だ。

Jリーグなど、現場で実況する際は、サポーターの雰囲気など、現場でしか知ることができないことも拾っていく。特にチャント(応援歌)のタイミングや選曲センスについては積極的に触れ、時にエピソードを交えるようにしているそうだ。「サポーターは拾ってくれればうれしいでしょうからね」。こうした積み重ねが実況の深みを作るのだろう。日々の情報収集はもちろん欠かせない。

「日々が背水の陣」。フリーに転向した2005年以降、ひとつの中継に向き合う重みはさらに重くなったという下田さん。実際の試合が駆け引きであるように、実況席でもまた駆け引きがあるのだ。

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