「あなたはどうして、塾生新聞会に入ったのですか」。ミシガン大学からの留学生、アネット・シャムさんは、本紙記者に問いかけた。フレンドリーな彼女の逆インタビューに、思わず笑顔にさせられる。
アネットさんは、子どもの時から香港、中国、アメリカと様々な場所で暮らしてきた。それぞれの地で人と出会い、語り合うことで、多様な価値観を知ることができたという。
「香港はイギリスの影響を強く受けていて、通っていたインターナショナルスクールも、ウエスタナイズされていました。だからこそ、オープンな気質が身についたと思うのです」
香港での授業には、ディスカッションが導入されていて、誰もが意見をストレートにぶつけ合う。日本の大学の授業では、教師に名指しされるまで、学生は口を開かないことが多い。
「言葉の問題もあるのですが、円滑に会話できないと、日本の学生が引いてしまうこともあった。理解してみようと試みることで、新しい発見があると思う」
来日は3度目。早稲田大学に夏の短期留学をした経験もある。今回は初めての長期滞在で、日本社会の特性も見えてきた。
ファストフード店のアルバイトでは、仕事の順番に気を使う風潮に驚いた。ほかの留学生とも、形式を重んじる日本の慣習について意見を交わしたことがあるそうだ。しかし堅苦しいと思う一方で、この形式が日本独自の創造力の源だとも感じている。
「アジアの中には、日本の商品があふれています。高度な電化製品やアニメーション、ゲーム。役に立つものから、娯楽商品まで、こんなに広い範囲の製品を生み出せるところは、革新的な力を感じます」
目を輝かせて見せてくれたのは、日本の玩具会社が販売しているユニークな枝豆型ストラップ。これは一例だが、アジアに溢れている日本独自の商品に触れているうちに、ビジネスで日本に関わってみたいと思うようになったという。
「日本語を勉強するうえで嬉しいことは、日本のドラマが字幕なしに見られるようになったことです。やっぱりドラマは俳優さんのセリフを理解したい」
微笑みながら、そう語る彼女は、日本のドラマの大ファンだ。必死に学ぶ日本語の上達を実感できるツールでもある。
日本に独特の魅力を感じるからこそ、日本語の勉強は手を抜かない。現在、アネットさんは中国語、英語、韓国語、スペイン語を流暢に使いこなす。彼女が日本語を勉強しようと思い立ったのは、アジア全域で働く能力を身につけたいと思ったからだ。どこの国の会社で働くにしろ、海外の会社と提携したりする機会は必ずある。アジアで働くことを目的にする彼女は、中国語と日本語は完璧にマスターしたいと語る。
「夢のためには、日本語の習得をやり遂げなければ”useless”(意味がない)。片言ではなくて、流暢に使いこなせなければ、本当の能力ではないから」
彼女は、自分と戦う姿勢を隠さずに、未来を見据えている。なぜ学ぶのか。その答えは、己の夢のためだと言いきれるアネットさんがまぶしい。
(佐々木真世)