ラテンアメリカの小説は、日本人にとってはいわゆる「マイナー」なものなのかもしれない。しかし、実は世界的に有名な作家、作品を多く擁する地域であり、特に「ブーム」と呼ばれた1960年代には質・量ともに世界最先端の作品群を生み出したと評された。中でもガブリエル・ガルシア・マルケスの『百年の孤独』は20世紀小説の中でも屈指の傑作とされている。
今回紹介する『2666』は「ポスト・ブーム」世代と呼ばれるチリの作家ロベルト・ボラーニョの小説だ。2004年に出版され、地元のスペイン語圏で「ボラーニョ・フィーバー」という言葉が生まれたほどの人気を誇る。欧米でも評価は高く、英訳版は全米批評家協会賞を受賞している。アメリカで最も権威ある文学賞の一つだ。
本書は全5部から構成されており、第1部では謎の作家アルチンボルディの研究者4人が出会い、交流を深めていくところから始まる。彼らは作家の足取りを追ってメキシコ北部の都市サンタテレサに向かい、そこで大学教授のアマルフィターノに出会う。第2部では彼の視点から、そして第3部ではアメリカ人記者フェイトの視点から、サンタテレサで起きた女性連続殺人事件が語られる。それは何年にもわたって頻発していながら、そのほとんどが未解決に終わっていた。事件の一連の流れが第4部で描かれた後、第5部では謎の作家アルチンボルディの人生の全貌が明かされ、独ソ戦を経験した若者が、いかにして作家になり、そしてなぜメキシコに向かったかが判明する――。
現代に渦巻く暴力の連鎖を壮大なスケールで描いた本書は、読者を圧倒する力を持つといっても過言ではない。本書を読む者は、読書の醍醐味を十分に味わうことができるだろう。
(根本大輝)
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日吉図書館・1F特設コーナーにて、「2666」を展示中! 貸し出しもできます。