「インスタ映えします」。とあるお店の宣伝文句だ。2017年の流行語大賞にも選ばれた言葉だ。現在、若者が本当に求めるのは商品か、それとも「インスタ映え」か。
人気お笑い芸人・渡辺直美さんのインスタグラムを知っているだろうか。彼女は現在、国内最多のフォロワー数を誇るインスタグラマーである。その人気の秘密は投稿のクオリティの高さ、ネタの濃さにあると江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授の植田康孝さんは分析する。
思わず笑いたくなるような動画。真似したくなる個性的なファッション。見る人を惹き付ける笑顔。おしゃれの参考になるだけでなく、飾らない彼女の性格に憧れを抱く女性は少なくない。インスタグラムはいまや、女性達の理想や憧れの指標となっている。
インスタグラムの流行と切り離せない関係にあるのが、テレビという従来メディアの衰退である。長寿番組でありながら凋落がささやかれている番組には、LGBTを嘲笑する場面があったとして多くの批判が寄せられた。「昔を回顧し、昔と同じように笑いを取ろうとする制作側と、視聴者との感覚のズレが批判を生んだ」と植田教授は指摘する。若者のテレビ離れはもはや否めない。
そこで次なる媒体として人気を博したのがインスタグラムである。憧れの有名人のファッションや生活スタイルを参考にしたり、人気のお店を調べたりできる情報源として活用されている。
なぜここまでインスタグラムを利用するひとが急増したのか。その理由は、日本人の同調を好む性格にあるという。
スクランブル交差点を人とぶつかることなく歩けることからもわかるように、日本人は昔から周りに合わせて行動する傾向がある。「流行りに乗り遅れないように」「周りについていけるように」という若者の心理がインスタグラムを普及させたのである。
近年の内閣府の調査によると、13~29歳の男女に聞いた「自分自身への満足度」は、日本人が群を抜いて低い。ここにもインスタグラム流行の理由がある。自分自身への満足度の低さには、低い自己肯定と高い自己実現が関係すると植田教授は述べる。自分に自信が持てない上に、高い理想を持つ若者にとって、「いいね!」の数は自信に繋がるのだ。その数が自分への承認を意味すると捉えるからである。
さらに学歴やブランドが通用しなくなり、個性やコミュニケーション力が評価されるようになった現代では、フォロワー数や「いいね!」の数にその人の価値が置かれるようになってきているという。「インスタ映え」が人気の指標となっているのだ。
果たしてインスタグラムの流行はいつまで続くのか。他人にプライベートを発信する風潮は、やがて「インスタ疲れ」に変わるのではないかと植田教授は危惧する。テレビからインスタグラム、インスタグラムから次なる媒体へ。メディアの歴史がたどってきた時代の変わり目は近いかもしれない。
(松尾美那実)