日本の伝統的な衣服である着物。その繊細な美しさは日本のみならず世界中の人々を魅了する。2020年に開催される東京五輪・パラリンピックに向け、世界196カ国をテーマに着物を制作するプロジェクトがある。一般社団法人イマジン・ワンワールドが展開する「KIMONO PROJECT」だ。日本を代表する着物作家たちが参加し、「世界はきっと、ひとつになれる」というメッセージを発信するこのプロジェクトの代表は、慶大を卒業し、現在は福岡県で呉服屋を営む高倉慶応氏だ。
10月25日に池袋サンシャインシティで開催されたイベントで、モロッコ、コスタリカ、カタール、アイルランド、パナマ、マダガスカル、ハンガリー、ボリビア、フィリピン、パラグアイの10か国の着物を披露するショーが行われた。一番はじめに登場したモロッコの着物の帯には特徴的で目を引く円形の幾何学文様が描かれている。これはモロッコのアラベスク文様を取り入れたデザインで、京都の西陣の技術で織られている。独自の生態系を持つことで知られるマダガスカルの着物には、バオバブの木やワオキツネザル、蝶などの生息する生物がカラフルかつ大胆に描かれ、インパクトの強い作品となっている。
また、作者が実際に現地に訪れて感じ取ったイメージを表現したフィリピンの着物は、落ち着いて静かな加賀友禅の特徴を生かし、繊細にヤシの葉が描かれている。
注目すべきは着物と帯だけではない。琉球紅型の技法で制作された鳥の模様が印象的なコスタリカの着物を着るモデルの髪には、同じく美しい鳥の髪飾りがつけられている。これはコスタリカに生息するケツァールという鳥だ。髪飾りも着物に合わせて手づくりされており、すべてを含めて一つの国を表現しているのだ。
表現は決して難しいものではなく、着物に明るくない人が見ても各国の文化の要素を感じ、鑑賞を楽しむことができる。
ショーは、10カ国の着物を着たモデルが手を取り合い、着物という文化を通して「一つになれる」ということを表して締めくくられた。五輪はスポーツの祭典であると同時に平和の祭典でもある。政治的な対立を抱えるなど難しい関係にある国同士でも芸術において壁はないはずだ。日本が世界中から注目される2020年、東京五輪の舞台で、日本にしかできない表現で平和や友好を示すことができるか。プロジェクトの行方に期待がかかる。
(竹内未月)