来る2020年、東京で2度目となるオリンピックが開催される。
競技を実際に行う施設はもちろん、交通や情報インフラの整備、宿泊施設の拡充など、政府も多額の資金を投入し、オリンピック成功に向け動いている。
しかし今回の東京五輪、心待ちにしている人はどれだけいるのか。確かに、世界的に大きな祭典が母国で行われることは日本人として誇らしい。だが日本は世界一の債務国だ。オリンピックに多額の投資をしている場合なのだろうか。東北や熊本など各被災地の復興の資金や、教育費など優先すべきものは他にあるのではないか。
東京で初めてオリンピックが行われた、1964年。戦後日本の発展を世界に見せつけようと、国立競技場の建設や、新幹線、モノレールなど、日本政府は、持てる技術を全て結集させ、急ピッチで準備を進めていた。オリンピック成功の裏には、無理な工期を強要され、過酷な労働で死んでいった工事関係者が300人はいたと言われている。
『オリンピックの身代金』は、テレビ朝日が開局50年を記念して製作した2夜連続のスペシャルドラマだ。オリンピック成功の裏で、その栄華の恩恵を受けられず苦しむ人々の叫びを一人の犯罪者に託し描かれている。
オリンピックを56日後に控えた東京で、オリンピック警備本部長の自宅が爆破されるという事件が起こった。それを皮切りに警察学校や外務省などが次々に標的となり、何者かによって爆破される。
オリンピック開催を目前に沸き立つ国民を不安に陥らせてはいけないと、捜査一課五係の刑事らは極秘捜査を言い渡される。しかし犯人は、日本政府が威信をかけ成功させようとしているオリンピックを人質にとり、身代金を要求してきた。
本当の悪は、数々の事件を起こし市民を危険にさらす犯人か。それとも、地方をないがしろにし、労働者たちの死に目を向けもしない政府か……。
竹野内豊、松山ケンイチ、斉藤工、黒木メイサなど、豪華俳優陣の迫真の演技がオリンピックの裏に隠れた闇を華麗に暴きだす。
今年3月に新国立競技場建設の現場監督だった23歳の男性が月200時間を超える残業の末に自殺するという事件があった。日本は50年前の悲劇をまたもや繰り返すのか。物語自体はフィクションではあるが、第1回東京五輪から日本は何を学んだのか、学ばなければならなかったのか。それを根本から問いただす社会派ドラマの大作だ。
(山本理恵子)