女性は社会的に強くなった――そんな声をよく聞く。確かに男女雇用機会均等法もなかった数世代前と比較すれば、女性の地位や権利を巡る状況は劇的に変化し、選択の幅も広まってきたといえるだろう。最近では「女尊男卑」なる言葉まで目にするようになったが、慶應義塾における男女共同参画の実態はどうなっているのだろうか。
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現在、全体の3割以上を女子学生が占める慶大。女性教員の割合について、商学部教授の工藤教和常任理事は「言うまでもなく低い」と述べる。昨年の時点で慶大の女性教員は403名で、全体に占める割合は約19・2%。文部科学省の「平成20年度学校基本調査」によれば、同年の全国の大学における女性教員の平均比率は18・6%であるから、日本国内に限って言えば慶大は平均的な水準と言えるかもしれない。
だが工藤理事は、国際的に見れば依然として低い水準であり、また女性教員の在籍する学部や研究科には偏りがあると指摘する。確かに19・2%という数値は、看護医療学部や薬学部など、女性教員の割合が相対的に高い機関を入れて算出されたものであり、各学部・研究科ごとの差は大きい。「女性がいない」というと、理工学系の分野ばかりが思い浮かばれるが、女子学生が過半数近くを占める慶大の文化系学部でも、女性教員の割合は意外なほど低い。
では大学教員ではなく、職員の場合はどうだろうか。昨年3月時点で、慶大の女性職員(病院職員を除く)の割合は約56%と、男性を上回っているが、管理職に就いているのは10数名に過ぎないという。また、一貫校における常勤の女性教諭の数も全体の2割程度に留まっている。現在、女性教員・職員の割合などに関して、慶應義塾としての具体的な数値目標などはないという。
こうした中、慶應義塾はワークライフバランス研究センター(センター長・山下香枝子看護医療学部長)を昨年2月に設置。今年の3月には、慶應義塾男女共同参画室が発足し、工藤常任理事が担当理事(室長兼務)に就任した。ワークライフバランス研究センターが、「ソーシャルキャピタルを育む女性研究者支援」プロジェクト推進に特化した活動を行う一方、男女共同参画室は同センターと協力して、男女共同参画に関するより包括的、恒常的な取り組みを行っていく予定。各キャンパスや一貫校などを代表して、男女共同参画推進委員会のメンバーが選出され、第1回の委員会が4月に開かれた。勤務時間体系の変更など具体的な措置の実施へ向けた、慶應義塾としての基本方針の策定を行っていくことが期待される。
「それぞれの立場にある人たちが、制約なしに自由に力を発揮できるのが大学の理想」と工藤理事は語る。
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1885(明治18)年、福澤諭吉は『日本婦人論 後編』を発表し、男女同権を論じた。西洋では女性の社会進出が進んでいると示したうえで「世界中等しく人間にして、西洋の婦人は役に立ち、日本の婦人は然らずとの道理はなかるべし」と述べる福澤の論旨は明快である。
「一日も早く我が風俗を変えて西洋風となし、婦人も一人前の用をなすべき工風(くふう)を運(めぐ)らすは日本国の男女共に専ら心掛けて勤むべきことなり」
創立から150年以上が経過した今、創立者の素朴な結論は慶應義塾にどう響くか。
(花田亮輔)