「日本らしさ」を考えるとき、歌舞伎や能などの伝統芸能や詩歌を思い浮かべる人は多いだろう。そこで今一度、古くから日本に根付き、今でも大切にされている文化から「日本らしさ」について考えてみたい。

最近、「百人一首」が注目されている。百人一首といえば、百人の歌人の和歌を一首ずつ集めた歌集で、「競技かるた」のブームによって、私たちにとって身近な存在になった。そのような中で、百人一首で日本の文化を世界に広める活動をしているピーター・ジェイ・マクミランさんに、百人一首という切り口から日本人に根付く精神性について話を聞いた。

ピーターさんは、アイルランドの大学を卒業後、米国に渡り、1987年に来日した。アイルランドや米国では哲学やイギリス文学を専攻していたため、意外にも、来日前から日本について多くを知っていたわけではないそうだ。百人一首に興味を持ったのは、日本での生活を通し、その文化に触れる中で、日本人の精神性が強く表れているものが百人一首であると気づいたからだ。ピーターさんは2‌0‌0‌8年、5年ほどかけて、百人一首の英訳版を出版した。

この翻訳で伝えたかったことは、日本人の自然に対する考え方と、日本人が共有してきた恋愛観だ。百人一首には、優れた四季への感覚と恋愛に対する素直な気持ちが表現されている。欧米とは異なった日本人の感性が伝わるよう、翻訳には苦心を重ねた。

百人一首から見えてきた「日本らしさ」とは何か。「『 和を以て貴しとなす』という精神性、これが『日本らしさ』だと思います」とピーターさんは言う。百人一首には、曖昧な表現で詠まれている和歌が多い。この曖昧さは、今日の日本人が持つ性質と共通している。ピーターさんは、大学で日本人の学生を指導することもあるが、学生が周りを気にして、積極的に発言しないそうだ。「日本人の謙虚な姿勢と、正しいことは自信を持って主張する姿勢、両方を持つことを大切にしてほしい」とピーターさんは期待する。

これから、留学や旅行などで、外国人と接する機会があるかもしれない。日本人の謙虚で曖昧な態度は美徳である一方で、アイデンティティを持っていないと思われる可能性もある。「日本らしい」姿勢を持ちながらも、国際的な交流を通して、自分の考えをはっきりと相手に伝える姿勢を身につけたい。
(鵜戸真菜子)