「ピカチュウ、ゼニガメ、ニャース……」。これらの名前を一度は聞いたことがあるだろう。「ポケットモンスター」、通称「ポケモン」に登場するポケモンたちである。昨年には携帯アプリが登場して大きな話題にもなった世界的人気キャラクターだ。

ポケモンたちの数も年を経るごとに増え、今では8‌0‌0体を超える。もちろん全てのポケモンには一体に付き一つの名前が付けられているが、その名前に注目したことはあるだろうか。慶大言語文化研究所准教授の川原繁人氏はポケモンの名前に着目し、「音の意味」を読み解く研究を行っている。言語学的視点からポケモンの名前を見ると、どんなことが分かるのであろうか。

「きっかけは学生とポケモンの話になったことです」と川原氏は話す。元々、「音の意味」研究の一つとして「濁点」に注目していた。例えば「ゴジラ」と「コシラ」を比べると、明らかに「ゴジラ」の方が大きく、重そうに聞こえる。こうした事例から人には「濁点は大きく重い」と感じる感覚があることが分かる。

この感覚を数値的に裏付けることができる研究題材が「ポケモン」であった。数百に及ぶポケモンの全てに、高さと重さの具体的な数値が定まっており、名前に含まれている「濁点」の数と、ポケモンの高さと重さの関係を統計的に分析できるのである。




実際に全てのポケモンの名前、高さ、重さをデータ化して分析をしてみると、ポケモンの名前に含まれる「濁点」が増えると、高さと重さが増える傾向が見られ、感覚の存在が統計的に明らかとなった。

ポケモンならではの研究分析もある。学生からの「ポケモンには進化があり、進化後には濁点が付くことが多い」と指摘受け、「濁点」とポケモンの進化の関係も分析した。結果は指摘通り、進化後の名前に「濁点」が多く含まれる傾向が明らかになった。

こうしたポケモンの名前の研究は、国際的な広がりを見せ始めている。ポケモンが様々な言語に翻訳されており、言語間で比較研究ができるためである。すでに英語、中国語、ロシア語で研究が始まっており、来年にはその成果を発表し合う予定だ。

「ポップな題材でも数値を使えば本気で研究できる」と川原氏は語る。たしかにポケモンから言語学の研究が生まれた。身近なものを科学的に考えることが新たな研究の入口となるのかもしれない。

 

(藤咲智也)