今年5月27日をもって塾長を退任する清家篤氏にインタビューを行った。清家氏は慶應義塾大学経済学部卒。同大学院商学研究科に進学し修士課程を修了、1‌9‌9‌3年には博士(商学)が授与される。1‌9‌9‌2年からは慶大商学部教授に就任、2‌0‌0‌7年から約1年半商学部長を務めたのち、塾長に選任された。2‌0‌0‌9年から2期8年に渡って塾長を務めている。

―率直な今の気持ちをお聞かせください。
 
塾長1期目の時、私から任期を2期8年までとする規約改定を提案して評議員会に認められました。塾長の仕事は誰しも生涯続けられるものではないので、義塾の安定的な発展のためには円滑な引継ぎをし、良い塾長が次々と出てこられるようにという考えからです。そしてこのたび新しい塾長への円滑な引継ぎができるだろうということで安堵しています。塾長の仕事は何といっても慶應を持続可能な形で維持し発展させることで、就任時は特に財政状況が厳しい状況で心配しましたが、なんとか回復し、まだ1カ月任期はありますが責任をまっとうできそうでほっとしています。

―就任時に教育・研究・医療の質を高めたいとおっしゃっていましたが、達成できたという実感はありますか。
 
質を向上させるための前提として財政を立て直すことが必須でした。就任時には大学の持続可能性そのものが問われる厳しい財政状況でしたから、早急に改善するために創立1‌5‌0年事業の先送りや金融資産をリスクの小さなものに替えるといったことをしました。その結果、収支は改善し、奨学金や施設の整備といった学生の福利向上や、国際化の質を高める取り組み、医療においては新病院棟の建設などを進めることができました。

―実学の精神や自分の頭で考える力を現代においてどのように磨き発揮すべきだと考えていますか。

実学とは科学的にものを考えるということで、疑問を持って問題を見つけ、それを説明しうる仮説を立て、それを何らかの方法で検証し、結論を導くというプロセスです。今日のような変化の時代に、自分の頭で考える力を磨くために大切な考え方です。また単純な実感や周りの意見に流されず、ものごとを掘り下げて疑うことも大切です。さらに物事は全て相対的なものだということも学んでください。相対的なものの中から最善を選び取る「公智」を磨くことが何よりも重要と福澤先生は言っています。

―サークルが飲酒トラブル等で不祥事を起こし、活動停止や解散の告示が目立ったことについてどう思っていますか。

そうした事故はとても残念です。処分が目立っているのは、以前に比べて飲酒事故によるサークルへの処分を厳しくしてきたこともあると思います。断固たる対処をする姿勢が少しずつ学生に浸透していると思いますが、まだ事故がなくならないのは残念なことで、いっそう気を引き締めてほしいと思います。

―忙しい中で楽しみや息抜きはありましたか。
 
人に会って話すことが好きなので、塾長としていろいろな人と話す機会があったのが楽しみでした。

―退任後はどのように慶應と関わろうとお考えですか。
 
次期塾長の就任までにできる限り引継ぎをしっかりと行いたいと考えています。その後は塾長経験者として学事顧問になり、教授としては労働経済学の教育と研究に再び力を入れたいと思います。

―次期塾長に期待することは。

塾長になる長谷山常任理事とは8年間一緒に仕事をしてきて、全幅の信頼を置いているので、必ず慶應を発展させてくださると確信しています。

―塾生へのメッセージをお願いします。
 
変化の時代を生きる皆さんには自分の頭で考えて問題を解決することが今まで以上に求められています。慶應義塾で、幅広い学びと深い研究を実践し、自分の頭で考える力を養ってください。
(聞き手=杉浦満ちる)