昨年、慶應義塾にシステムデザイン・マネジメント研究科(SDM)とメディアデザイン研究科(KMD)という2つの大学院が設置された。教育理念などが抽象的なこともあってか、その全容は余り知られていないようだが、一体どのような研究や活動を行っているのだろうか。
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SDMの活動に不可欠なキーワードは「システム」だ。あらゆるモノやサービス、金融、政策などは、複数の要素が複雑に組み合わさったシステムとして成立している――そう説明するのは同研究科の当麻哲哉准教授。
「船そのものだけでは、前に進むことはできない。オールと乗組員と船という3つの要素がそろい1つのシステムをつくって初めて、船は前に進むことができる」
SDMでは、こうした社会を構成する仕組みやシステムをいかに新たに構築、維持するかを学び研究する。マサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学などとの提携もあり、教授陣には技術畑の出身者だけではなく、ジャーナリストの手嶋龍一氏など社会経験豊富で多彩な人材を様々な領域から揃えた。これは物事を一つの側面からだけでなく、多視点で捉えて、全体最適化する能力を養うためだ。当麻准教授も米国3M社勤務と、教員としてはユニークな経歴を持ち、学生たちも文系・理系を問わず多様な前歴を持っているという。開設1年目だった昨年度を当麻准教授は「様々な経験を持った学生がいて非常に面白い大学院だ」と楽しげに振り返った。
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一方KMDは、「メディア・イノベータ」の育成を目指す大学院だ。メディア・イノベータとは、人々の多様な表現行為によって生まれた価値を、いかに流通、共有させるかを考える新しい時代のリーダーを指す造語。「これからはますます、個人の創造性が重んじられる」と同研究科委員長の稲蔭正彦教授は話す。
KMDでは、創造的な作品のデザインやそれに関連する技術、政策などの講義のほか「リアルプロジェクト」と呼ばれる、現実社会への研究成果還元を強く意識した産学連携の活動も行われる。動画共有サイトのニコニコ動画を利用したプロジェクトなどが現在進行中だ。
KMDは本部を日吉に置きつつも、シンガポールや大阪など、国内外に拠点を持つ。3月に行われた研究科説明会は、日吉と大阪の会場をネットで結び同時開催された。また現在、外国からの学生が約15%を占め、日本語を話せなくとも卒業が可能なカリキュラムとなっている。「好奇心旺盛な人に来てもらいたい」と稲蔭委員長は語る。
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両研究科とも学生の半数以上が社会人経験者で、特にSDMでは主要な授業を土曜日に設置するなど、働きながらでも通えるよう様々な配慮がなされている。
バラエティ豊かな人材が集まる、両研究科の今後が楽しみだ。
(花田亮輔)