無音の教室の中に響く笑い声と弾ける生徒たちの笑顔。コミュニケーションツールは手。手話を学ぶ教室は活気に満ちた様子だ。そんな「目で見る言語」日本手話を学べる貴重な環境が、慶應にはある。今回は三田キャンパス「日本手話」の授業を受け持つ數見陽子さんに話を伺いながら、「日本手話」の授業の魅力に迫った。
日本手話は、日本語と異なる独自の文法や考え方、価値観を持つ独立した言語だ。毎週火曜日に開講されている慶應言語文化研究所の設置科目「日本手話」は、こうした日本手話を通した異文化理解を学習目的のひとつとして授業が進められている。授業中の使用言語は手話のみで、教室に音声はない。文学部や看護医療学部など様々な学部から集まる学生たちは、各々が相手の目を見ながら手話を用いてコミュニケーション能力を育むという。
手話において重要なことの一つが、話す相手の目を必ず見るということだ。手話は「目で見る言語」。会話中に視線を外せば、その会話は成り立たなくなる。授業中には、教員の目をしっかりと見つめて手話を学習する学生たちの真摯な姿をうかがうことができる。
ところで、一般的にろう者(耳が聞こえない人々)が使用する手話を、聴者が大学で学ぶ魅力とは一体何だろうか。まず挙げられるのは、ろう者への理解が深まるということだろう。担当の數見さんは自身もろう者であり、授業ではもちろん声を使わずに生徒たちに手話で日本手話とろう文化を教えている。これはろう者への偏見を捨て、彼らへの理解と対等な対応の仕方についての学びに結びつくはずだ。また「同じ国の中にも他の文化や言語があると知り、日本人は母語や文化がみんな共通しているという考え方を改めることができる」と數見さんは語った。声を使わない言語もコミュニケーションを成り立たせる重要なツールとなるのだ。
「音声言語とは別の、目で見る言語である日本手話。高い水準で本格的な日本手話を大学で学べることは良い経験だ」と數見さんは話す。「日本手話」の授業は、日本手話を通して自分の知的な世界を広げ新しい世界に触れられる、貴重な学びの場だ。「日本手話」には初級と中級(2017年度開講)があり、初めての人でも安心して初級から学び始めることができる。来年度から新たな言語の扉を開いて見るのはどうだろう。
(井上晴賀)