私たちが知らない国際問題。私たちが知らない世界。これらを「知る」ことに、意味がある。
学生団体S.A.L.。彼らは、来月4日と6日の2日間に「Theatre of PEACE」という映画祭を開催する。一般にあまり知られていない世界各地の諸問題を題材とする、学生製作の映画4作品を上映する映画祭だ。今年は3回目の開催で、ミャンマー、旧ユーゴスラビア、フィリピン、チベットの4地域が舞台として選ばれた。現地を実際に訪れて「伝えたい」と感じた学生たちがメガホンを取り、2年間の現地取材の末に完成した。
フィリピンのゴミ山で撮影された上映作品のひとつ『キミの隣のボクへ』の監督を務めた小林令奈さん(政2)は、映画制作のヒントを同団体のプロジェクト「focus on myself」に見出したという。フィリピンの貧困地域の子どもたちにカメラを渡し、大切なこと、辛いこと、国の紹介の3つをテーマに写真を撮ってきてもらう。そしてそれらを日本で写真展という形で公表することで、多くの人にフィリピンの現状を知ってもらうというプロジェクトだ。しかし小林さんは、フィルムを通して見たフィリピンの世界観を、映画の中にも描き出したかったと話す。「写真だけじゃ分からないバックグラウンドも伝えたい」
映画にする過程で、現実とのギャップに悩まされたこともあるようだ。編集者の意図やフィルターが入らない写真を題材に選んだものの、映像にしていく上ではどうしても監督の意図が入ってしまうことがある。2年間の取材を経てフィリピンの子供たちと友人になっても、彼らが取材で話そうとしない家庭環境などの話は映画では使えない。「友達だから彼らの人生を晒しものにはしたくない」
他作品でも、地域によっては禁止事項があったという。特にユーゴスラビアやチベットでは映画の中に政治的意見を含むのを良しとせず、フィリピンでも政府の制限がありゴミ山の中には入れない。限られた条件の中で、学生たちは現実を素直に伝える映画を製作していった。
今回の映画祭の意義について、S.A.L.代表の野田一慶さん(経3)はこう語る。「利権やお金が絡まない分、純粋な気持ちで、監督それぞれの思いが映像になっていると思う」。諸問題について発信していく手法として映像を選んだのは、音や視覚的情報が多く入って来やすく、現地の雰囲気が伝わりやすいからだ。「私たちがしているのはあくまできっかけを提供するだけ。今回は特に皆さんが知らない問題にフォーカスしているので、とにかく知って欲しい」と話す野田さん。映画を見た観客には、後に諸問題についてふと思い出し、興味持って何か行動を起こしてくれれば嬉しいと語った。小林さんは「貧しいから可哀想だから、ではなく、友達だから助けたい、知りたいと思って欲しい。彼らを身近な存在と思って欲しい」と語る。
諸問題に苦しむ他国の友人を知るために、この映画祭へ足を運んでみてはどうだろうか。
(井上晴賀)