ワインの魅力に気付いたきっかけは、ドイツのぶどう畑に実際に行った際に現地のマイスターさんに会い、ワイン作りを体験したことです。ワインは、人の手のかけ具合や、地域、気候、空気、水などの違いが一本一本に表れ、その時その時で、味が違う。ワインは生物であり、成果物です。
また、ぶどうの栽培方法やワインの製造法は長年の伝統が職人によって受け継がれ、人の手によって一本一本作られる。その意味でワインは歴史の一つであり、文化であるとも言えます。どこかの商社が、大量に仕入れた材料に調味料で味付けをし、大量生産したものは真のワインとは言いません。
ワインと言えば、フランスというイメージが強いが、ドイツでもワインを多く生産しています。ドイツワインとフランスワインの大きな違いは等級のつけ方です。フランスワインは、ぶどう畑にあらかじめ等級がつけられており、そこで取れたぶどうは年や気候に関係なく等級が決まる。一方で、ドイツワインは、取れたぶどうの糖度を測定し、それから等級を定める。この点では、私はドイツワインを支持しますね。
ドイツワインは一般的に甘いと言われていますが、もちろん辛口のワインもあります。ドイツワインが甘いとされるのは、商社がマーケティングのために作り上げたドイツワインのイメージです。これが消費者に定着してしまっている。
さらに悪いことに、日本では、フランスやイタリアワインは、レストランで飲む機会があるが、ドイツワインはそれらに比べると飲まれる機会も少ない。だから余計に、つくり上げられたイメージを崩すことができない。過去に通訳や商談を行っていた経験のある私は、長年この既成観念に悩まされました。時が経った今でもまだマーケティングによって定着してしまったイメージは変わっていない。これは一度リセットする必要があるのではないでしょうか。そうしなければ、本当の意味で文化を知ることは難しいのです。
日本とドイツにおけるワイン作りでの違いは、まずぶどうの栽培方法が挙げられます。
ドイツでは、ぶどうを川のほとりの急な斜面にぶどうを植えます。日照時間が、少ないために日光や風、水はけ、土壌には特に気を配っている。このことは環境問題にも深く関わっている。それだけでなく、川のほとりの斜面でのぶどう栽培は景観をつくっている。近年では、今までワインを生産していなかった国が生産を始めたことでドイツワインが売れなくなってきたことや、畑を継ぐ後継者の問題が出てきている。これらが原因で、どこか一つのぶどう畑が荒れてしまうと景観が乱れてしまう。だから行政は町の景観を保とうと努力しています。
学生に伝えたいことは、ワインという観点から見ても、農業、マーケティング、行政、環境は相互に密接に絡み合っているということです。自分が勉強していることが、他の分野と無関係ということはない。ただ、その間には大きな意識の違いが存在するのです。物事の真の姿を見ようとする際には、そのことに気づき、既成のイメージに惑わされることないよう自分で確かめる必要があります。
(占部成美)