現在では数あるアートプロジェクトの先駆けである、取手アートプロジェクト(以下、TAP)。茨城県取手の地を拠点に、市、市民、東京芸術大学の三者が共同で活動している。
1999年、取手にキャンパスを持つ東京芸大に、入学試験でデッサンを求められない、当時としては珍しい現代アートを専攻とする科が新設された。それを機に再開発の時期であった取手駅前に何か作品を、という取手市からの持ち掛けに対し、芸大側がまちと絡んだ野外アート展を提案したことをきっかけとし、このプロジェクトは始動した。
その後TAPでは、全国から作品を募集し取手で展示する公募展と、取手在住のアーティストのアトリエを一般公開し交流を図るオープンスタジオを隔年で開催した。そうした1年ごとのイベント型の活動を経て、2009年からは継続的な関係が保てる長期のプロジェクト型の活動へ転換し、2つのコアプログラムのもと多様な活動を企画して実現させてきた。アーティストと協力しながら地域の魅力を引き出し人々の交流を生む活動を続けている。
TAP事務局に所属する五十殿(おむか)彩子さんは、「平日都内へ通勤し週末は買い物をするだけの暮らしはあまり面白みがない。取手を住んでいて面白い場所にしたい」と語る。
コアプログラムの一つ「アートのある団地」では、郊外の暮らしに向き合い、アートでできることを模索している。団地の一室をホテルとし、4歳の子どもから高齢者までが一緒にホテルマンとして部屋のしつらえや料理などでおもてなしをしたり、団地で暮らす人が集う場所をプロデュースしたりといった試みが行われている。
「半農半芸」というプログラムでは、農から表現活動にとって得られるものがあるのではないかという考えのもと、植物から染料を得る研究や綿花の栽培も行っている。
東京芸大があるまち、取手はアーティストの試みに寛容だ。この環境だからこそ、できることがある。「常に実験的なアートプロジェクトをやっていきたい」
現在、活動のサポートを行うボランティアを幅広く募集しており、慶大生でも参加できる。「ボランティアで来た人が単純な事務作業をやってくれたら嬉しくはあるけれど、それでは意味がない」と五十殿さん。TAPでは以前インターンシップを受け入れていたこともあり、学生とともにプロジェクトを動かしてきた経験値がある。活動には様々な関わり方ができる。このプロジェクトではその人次第でやりたいことを実現へと導いていける場が用意されている。
この春、再びインターンを募集する予定だ。アートやまちづくりに興味のある人はもちろん、さまざまな年代や立場の人と何か面白いことをつくってみたいという人が輝ける場であることは間違いない。都会から離れた郊外で、この春新たなことを始めてみるのも良いだろう。
(青木理佳)