2020年、東京オリンピックに向け、各界で着々と準備が進んでいる。さらに、日本を訪れる外国人観光客も増えている。この二つの変革に正面から向き合っているのが、ホテル業界だ。伝統を保ちながらも時代のニーズに合わせてユニークな宿泊施設を提供していることで注目されている、星野リゾートの代表・星野佳路氏に話を聞いた。
ホテル業界は今、変化の時期にさしかかっているようだ。「これまでのホテル業界は、旅先で顧客が安心できる環境を提供するためにホテルのスタンダード化を目指してきた。ホテルは顧客がどの国に行っても、約束された変わらぬ一定のサービスを提供する。しかし、今では世界中を旅し、感覚が洗練された顧客が増えている。ホテルに対して、その国や土地の地域性を求めるようになった」。こうした顧客の変化に適応できる代表的な例が日本旅館だ。海外のホテルチェーンに比べ、地域の魅力が色濃く演出される。世界の観光市場の風は今、「日本旅館」に吹いてきている。
日本のホテル文化を世界にアピールする絶好の機会が東京オリンピックだ。しかし、星野氏は東京オリンピックを終えた後の顧客維持を見据えている。ホテル業を通して、既に知られている日本の文化を紹介するのではなく、より知られていない個性的な地域魅力を紹介していくことで観光産業を活性化させていく。
「観光産業は、平和を作る架け橋となる」。これは、文藝春秋『観光立国論』(1954年)で松下幸之助が説いている考えに基づく。外国人が日本製品を買い、その製品を好きになることはあっても、日本人を好きになることはない。しかし、旅には現地の文化や人に触れ、理解を深めることでその国や人を好きにさせる力がある。星野氏は「旅を通してアジアの国際関係を良くしていきたい」と語る。政府はそうでなくても、その国や人々は好きだという風潮を作っていくことで、国際関係にも変化が生まれる可能性があるという。
変化し続ける星野リゾートにも、100年を超える伝統がある。経営者として老舗の伝統を守ることと、変化に対応していくことのバランスは非常に難しい。柔軟な考え方が必要だ。星野氏は伝統の定義を幅広く捉えている。伝統は形式や形があるものとは限らない。「顧客の変化に敏感に対応してきたことやチャレンジし続けることも伝統なのではないか」
旅をすると、今までの悩みが小さく見えたり、新たな発見を得たりする。視野を広げ、一回り成長した自分に出会うことができる。「旅は将来の夢や就活にも影響する。大学の4年間、授業もサークルも大事だが、ぜひ旅をしてほしい」
(井上晴賀)